今年、日本とバチカンは国交を樹立して75周年を迎える。これを記念して上智大学(東京都千代田区)では2日、ローマ教皇庁(バチカン)外務長官(外相に相当)のポール・リチャード・ギャラガー大司教による特別講演「THE PROMOTION OF A CULTURE OF PEACE~平和文化の促進~」を開催した。学内外から約200人が集まり、ギャラガー大司教が語る平和へのメッセージに耳を傾けた。
ギャラガー大司教は英リバプール出身。ブルンジ共和国、グアテマラ共和国、オーストラリアでの教皇大使を経て、2014年からフランシスコ教皇のもと現職に就いている。今回は、日本政府の招きで1月28日に来日し、安倍晋三首相との面会や岸田文雄外相との会談を通して、核廃絶や平和構築に向けての協力を進める考えを示してきた。
講演に先立ち上智大学の早下隆士学長は、「平和とは、労せずに与えられるものではなく、真摯(しんし)に学び、実行、行動しなければ維持できないことを改めて肝に銘じなければならない。ギャラガー大司教を迎え、平和を学ぶ貴重な機会に恵まれたことを感謝する」と述べた。
続いて駐日ローマ教皇庁大使のジョセフ・チェノットゥ大司教も登壇し、「平和は神から万人への贈り物だが、平和は努力する者にのみ与えられる」と述べ、「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」(マタイ5:9)を引用した上で、「平和のために世界は協力すべきだ」と語った。
講演でギャラガー大司教はまず、フランシスコ教皇の言葉を引用しながら、「大学の使命は全人格の形成にある。教会のライフと国家のライフに関わる重要な役割を担っている」と話した。そして、「平和を構築していくために欠かせないのは対話であり、平和の問題は文化、倫理、良心につながる。大学はこういったことを学べる特権を持っている」と訴えた。
次に世界情勢に目を向け、「平和とは、武力の行使で実現させるものではなく、紛争の原因を取り除き、人々が一致して実現させるものだ。そのためには、あらゆるイデオロギーを超え、対話の場を持つことが必要だ。近代社会においては、全ての人が社会に参加する権利を持っている。平和のための努力は、人間としての基本に立ち戻ることだ」と説いた。
ギャラガー大司教は、「正当性のある武力の行使」という問題にも触れ、「国際関係の機関で武力を使うことが認められていることにより、平和は常に脅かされている」と話す。そして、紛争が起きた時にどうするかについて真正面から取り組むことの重要性を訴え、「議論の余地のないような状況であっても、平和文化では、あくまで調停・仲裁を続ける」とし、武力ではなく対話での解決を強調した。
また、万人が権利を有する平和教育の促進についての考えも明らかにした。ギャラガー大司教は、平和構築の方法として、ネガティブなものとしてPKOなど武力行使を挙げ、ポジティブなこととして教育、研究、宗教、良心などを挙げた。そして、「世界平和の条件には、紛争の犠牲者や難民の財の回復がある。それがなければ、新たな戦争が起こる」と語った。
その具体的な方法として、核兵器など兵器に費やされる資金を自国の開発プログラムに回すことを提案した。そして、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標)に沿って、「地球のために何でもしようというのは義務である」と述べ、「研究開発のための権利を維持していくことが必要だ」と訴えた。
「真の平和文化は、社会の問題に全員が参与するところに見いだされる。大胆さと想像力を持って、共同のビジョンに合わせ、国家の法律を整備し、共同社会を実現する。しかし、これは新しいチャレンジであり、思考力と探求力が必要である」と語った上で、「人類の真のニーズは何か」と問い掛け、「このことを知るために、注意深い判断力の中で人間、文化、宗教を統合し、対話に関わる先見的なビジョンを作り出すことこそ大学の役割だ」と説いた。
最後に、真理による科学の発展と、対話による平和の構築を強調し、「私たちは平和の万人として、平和への道筋を考えていく。難しいことかもしれないが、地球上の友愛の手をあまねくつなぎ、その手を緩めない努力をしていかなければいけない」と締めくくった。
講演の後、上智大学の聖歌隊が賛美歌でギャラガー大司祭の訪問を歓迎し、感謝を込めて花束を贈った。