上智大学(東京都千代田区)は、日本イスラム文化センターによる「ハラル認証」を取得したハラルフード専門の食堂「東京ハラルデリ&カフェ」を29日、同大四谷キャンパスにオープンする。それに先立ち27日、関係者およびムスリムの留学生や日本人学生が参加しての内覧会が開催され、同店のメニューとなるハラルフードを一足先に味わった。
「東京ハラルデリ&カフェ」は、学生・教職員の国籍・文化・宗教など、さらなる多様化に対応するための施策の一環として、食事に制約のあるムスリム(イスラム教徒)の学生・教職員向けに開設するハラルフード専門の食堂。同大では、すでに昨年より昼食時にハラルフードの弁当販売を行ってきたが、多い日には1日150食が売れ、買えない人も出るほどの大盛況ぶりで、ムスリム以外の教職員や学生からも好評を博していることから、今回店舗としてハラルフードを提供することになった。
ハラルフードとは、イスラム教の教えにのっとり調理された料理のことで、ムスリムが口にすることを禁じられている豚肉、調味料を含めた豚肉由来の食材、アルコール類を一切使用しないことを特徴とする。また、ハラルフードを提供するには、日本イスラム文化センターから「ハラル認証」を取得しなければならず、そこでは調理人の中にムスリムがいることが条件となる。同大では、ハラルフードによる事業を展開するASlink株式会社(代表:モハマド・シャーミン)の協力を得て、「ハラル認証」を取得し、厨房・調理器具に至るまで完全ハラル対応メニューとなっている。
提供されるのは、小鉢付き朝食セット(200円)や、単品メニューとしてのカレーやミートソースパスタ(いずれも350円)、タンドリー釜で焼き上げる本格的ナンなどが味わえるデリセット(500円)のほか、ハラル対応のデザートやドリンクも用意されている。また、留学生を中心に要望の多いベジタリアン向けのメニューも併せて設け、多様なニーズに対応可能となっている。
「東京ハラルデリ&カフェ」の立ち上げに中心的な役割を担ってきた同大の学生総務担当副学長の川中仁氏は、カトリック・ミッション系である同大が積極的にハラルフードを提供することについて、「現在、本学には50人のムスリムの学生がいます。もちろん、食べる物で苦労している彼らへのサービスといったこともありますが、それ以上にキリスト教の価値観を土台とした、『世界の平和のために協力していこう』という上智のシンボリックな意味が大きいです」と話す。
また、「上智は、宗教色をあまり出していない大学といえるかもしれませんが、キリスト教精神が緩いとは思っていません。優先順位の問題で、上智では、世界のために何ができるかを一番に考えて行動しています」と述べ、「今世界ではいろいろな問題があり、宗派が違うことで争いが起きたりします。しかし、全部がそうではありません。このことを、ムスリムの食べ物を一緒に食べることで知ってほしいと思います」と同店開設の意義を語った。
管財グループ・チームリーダーの正山耕介氏は、今回提供される食事は、ASlinkの好意により、通常のハラル専門レストランよりもかなりリーズナブルな価格で提供されていることを明かした。「移動車でのお弁当も大変な人気でした。ハラルフードは、添加物も使うことはできないので、非常に健康的で、宗教を超えて誰に対しても価値のあるものです」とハラルフードの魅力を強調した。その上で、「この食堂が、単なる食事をする場所ではなく、異なる文化を受け入れる場として、本学の象徴的な意味を持つ場所であることを知っていただきたい」と今回の内覧会を開いた目的を語った。
ハラルフードを食べた同大の学生にその感想を聞くと、「さっぱりとした味付けでとても健康的な感じがして、1人暮らしの女子にはうれしい」と述べ、「なんとなくムスリムの食事には偏見を持っていたが、普通においしく食べることができて驚いています。こういう場所がないと知らないままでした」と語った。また、別の男子学生は「こういったカフェのように、宗教による独特の文化をきちんと分かるところがあれば、宗教間の和解につながっていくと思う」と話した。
インドネシアから来たムスリムの2人の留学生は、「とてもおいしい」と言い、「これまでもお昼に移動車でお弁当を買っていたが、種類も少なく、持ち帰らなければならなかった。友達と座って食べることのできるカフェのほうがいい」と話し、今後どんどん活用したいと語った。
「東京ハラルデリ&カフェ」は、平日は午前8時から午後8時までの営業となっており、終日ムスリムの学生・教職員の食生活をサポートすることになる。なお、同店の近くには、2013年から設置されたムスリムの祈りの部屋も設けられている。