ローマ教皇庁(バチカン)外務長官(外相に相当)のポール・リチャード・ギャラガー大司教が2日、上智大学(東京都千代田区)で記者会見を行った。
ギャラガー大司教は外務省の招きに応じ、先月28日から日本を訪れている。この間、安倍晋三首相と面会するとともに、岸田文雄外相と会談、初めて広島にも訪問した。この日は上智大学で特別講演会が開かれ、その終了後に記者会見が持たれた。
ドナルド・トランプ米大統領が表明した移民政策について、各国が国民や国境を守る権利を有することを認めつつも、現代は孤立した国で成り立つような時代ではないことを指摘した。「それぞれの国は文化、経済、政治など何らかのつながりを持っており、このことを考えながら関係構築をしていくことが大切。その中でバチカンができることは、橋を架けることだ」と述べた。
シリア問題(2011年から今も続く内戦状態)にバチカンはどう関わっていくかについては、バチカンは政治的解決には立ち入らない立場であることを明らかにした上で、「私たちにできることは、関係者が交渉の席について、真摯(しんし)に衝突や内戦に関しての話し合いをするのを促していくことだ」と語った。そして、苦難を強いられている多くのシリアの人々や、対立が続いていることには全力で関与していくと話した。
少数派のキリスト教徒が虐げられていることについては、「キリスト教徒だけでなく、文化的・民族的に少数派と呼ばれている人たちはその困難に直面している」とし、「全ての市民の権利が尊重される外交レベルでの取り組みを歓迎している」と語った。ただし、軍事的介入の賛否については、バチカンは表明する立場にないと伝えた。
バチカンと国交を断絶しているベトナム、中国について聞かれると、「外交関係は2つの国が互いに尊重し、関与することだ」とした上で、ベトナムについては現在、定期的にバチカンからの代表が訪問し、発展に努めていることを明かした。ベトナムにおける司教の任命もあり、「このことはバチカンにとってもベトナムのカトリックコミュニティーにとっても非常に重要だった」と語った。
また、「中国とは継続的に話し合いを続け、互いの信頼が構築されてきているが、最終的なところでの関係を築くまで、これからも見守っていかなければならない」と話した。懸念していることとして、中国国内における司教の任命権限の問題を挙げ、こういったことを踏まえながら今後も注意深く話し合いを続けていくことを伝えた。
日本のカトリック教会が核兵器廃絶に向けて声明を出したことへの質問も出た。それに対し、「日本は核兵器の問題に明確な理解・意見を持っている。世界で唯一の被爆国である日本側からの声は、より平和で安定した世界を作るためにも引き続き考慮していくべきだ。核兵器に費やされるお金を、安全な社会を作り出すため、開発の分野に回すことは、経済的に妥当なことだと思っている」と語った。
最後に、第2次世界大戦で日本軍が行った加害行為が戦後70年が過ぎた今なお大きな外交問題となっていることについて、示唆が求められた。「対立や衝突に対してバチカン市国がとる立場はともかく和解を進めることだ。第2次大戦はあまりにも悲惨な戦争であったため、完全に解決することは難しいが、真実をしっかり調べ、受け止め、和解を進める努力をしていくことが重要だ」と強調。そして、「指導者は、国家同士の和解というより人同士が和解することを重要視すべきである。その中で互いが理解し合い、関係構築ができるのであれば素晴らしいことだ」と語った。「例えば、第2次大戦後のドイツとフランスの和解は外交上の1つの奇跡だった」と振り返り、「正義、真実の精神に基づいて政治家も国民もどうやって前進していったらいいのか考えていくことが必要だ」と語った。