「僕はカトリックなんだ」と、穏やかな語り口で本紙に語り始めた、元農林水産大臣で弁護士の山田正彦氏。24日昼、雪が降る寒い参議院議員会館前(東京都千代田区)で、同院特別委員会で現在審議中の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の批准に反対する「TPPを批准させない!全国共同行動」などのグループによる座り込み抗議行動に参加した後のことだ。
1942年長崎県五島市生まれ。TPP交渉差止・違憲訴訟の会(池住義憲代表代行)で幹事長も務めている。自身の信仰とTPP反対について「特に直接関係があるわけではない」と語りつつも、「ただ、隠れキリシタンがいる五島の貧しい地域を見てきたから、そこを守りたいという気持ちがあるんだと思う」と付け加えた。
「日本は急速に食べられなくなってきている」と山田氏は、貧困の増大を指摘した。故郷の地域でも「漁民の年収は150万円ぐらいじゃないかな」と言う。
TPPの問題に取り組んで6年余。前著書『TPP秘密交渉の正体』(竹書房、2013年)に続き、6300ページにわたるTPPの文書をチームで分析して新しい著書『アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!』(サイゾー、2016年8月)を出版した。帯には「政府に国民は騙(だま)されている」と書かれている。
その著書で山田氏は、TPP協定で「日本の農業は壊滅的な打撃を受ける」「食の安全が脅かされる」「医薬品が2倍から3倍になる」「国民皆保険制度が危うくなる」「インターネットの自由が危うくなる」「(外国企業が投資受け入れ国の政府を訴えられる)ISD条項で国の主権が損なわれる」「雇用が失われ、賃金も下がる」などと警告。公共サービスが民営化され、外資が入れば、地方はさらに疲弊するという。ISD条項とは、「投資家対国家間の紛争解決条項(Investor State Dispute Settlement)」の略語。
しかし、ドナルド・トランプ米次期大統領は21日、大統領就任初日に米国はTPPからの離脱を通告するとビデオメッセージで明言した。米国なしではTPPは発効せず、いわば「死に体」になったとはいえ、山田氏はTPP国会承認案を廃案にするよう訴えるとともに、TPPに基づく国内法の改定や、韓米間のように日米間の自由貿易協定(FTA)ができる可能性を、山田氏は警戒している。
「行き過ぎた自由貿易は、公共サービスを私企業に売り渡してしまうことになりかねない」と山田氏は厳しい口調で警告し、公共水道について、「特に過疎地では水が飲めなくなってしまう」と付け加えた。
「極端な格差をもたらすこういうものは断固阻止しなければならない」と山田氏は強調。「関税自主権を守るのは国の責任だと思う」と述べた。交通インフラも市場経済にまかせるべきではないという。
「そういったことをTPPはぶちこわしてしまう。600の多国籍企業の利益のために」と山田氏。最後にクリスチャンに向けて「信者として何ができるのか考えてほしい」と訴えた。