現実に起こったある「奇跡」が、過激派組織「イスラム国」(IS)の手に掛かり死ぬところだったキリスト教徒の女学生たちを救った。
学生の1人の母親は、自爆テロ犯もいたISの戦闘員たちの手から娘が逃れることができたのは、神のおかげであり、娘を救ったのは「神の御手」だと語った。
学生たちは、比較的安全なイラク北部の都市アルビルで、米ニュースサイト「デイリー・ビースト」のダニー・ゴールド記者の取材に応じた。彼女たちは、ISの戦闘員70人以上が、クルド人が多く住む北東部の都市キルクークを急襲したとき、市内にあるカルデア典礼カトリック教会の学生用宿泊施設にいた。
イラク軍とクルド人部隊がISが拠点としている北部の都市モスルに迫る中、ISの戦闘員たちは、近隣のダククからイラク北部の石油工業の中心地であるキルクークに侵攻し、その町を新しい拠点にしようと企てた。携行式ロケット弾を抱え、自爆用のベストを着用したISの戦闘員たちは拡声器を通して、「ISが占拠した」と叫んで回った。
クルド人部隊がISの戦闘員たちを撃退したが、100人余りの一般市民、治安部隊の隊員、そして多くのISの戦闘員たちが命を落とし、一般市民約100人が負傷した。一方、クルド人部隊は、イスラム教徒の女性用の衣服をまとい、自爆用ベストを着用したISの男性テロリストたち15人を捕らえ、捕虜にした。
10月21日早朝、まだ薄暗い時間帯に戦闘は始まった。21歳のランド・リースさんは、最初は何が起こっているのか分からなかったと言う。日が昇っても家の周りで銃声がとどろいた。家の近くを歩く人の音を聞き、窓から外を見ると、外壁を飛び越える1人の軍人のような男が見えた。リースさんは、声を出して助けを求めようとしたが、何かが彼女を思いとどまらせた。「神が私の口を閉ざしたのです。なぜなら、そのすぐ後に、私たちはそれがISの戦闘員だと気付いたのです」
医学生であるリースさんは2014年、キリスト教徒の町カラコシュがISに占領されたため、町を逃れた。カラコシュは最近、ISから解放されている。リースさんの両親は既にフランスに渡っているが、彼女は医学の学位を取得するためにイラクに留まっていた。
ISの戦闘員たちが「アラー・アクバル(アラーは偉大なり)」と家の外で叫ぶ声が聞こえた。午前9時ごろ、教会の宿泊施設長から電話があり、2階に行って隠れているように言われた。彼女たちは、キッチンにある食卓ナイフや掃除用のスプレーなど、武器になりそうなものは何でも手に取った。日が暮れるころ、戦闘はさらに激化。学生たちの中には、火薬の臭いや煙で吐き気を催す人もいた。「銃撃はすごい音で、とっても近かったです。まるで彼らが部屋の中にいるかのように感じました」。施設長からイラク軍が向かっていると再び電話があり、彼女たちは翌朝、救出された。隣接する建物では、ISの戦闘員2人が捕らえられたという。
近くの別の家にいたモナリー・ナジェーブさんも、デイリー・ビーストの取材に応じた。最初、彼女は他の6人の学生たちと共に、窓がない廊下で朝まで隠れたという。しかし、そこは入り口から近く、不安に感じたため、階段の下の一室に移動した。
その後、誰かがナジェーブさんの携帯電話の番号を警察に伝えたため、警察と連絡を取れるようになった。そうしている間に、近くで空爆の可能性があることを伝えられ、ナジェーブさんたちは、寝室として使っていた応接間にあったベッドの下に隠れることにした。ガラス片やがれきから身を守るために毛布で身を包み、ベッドの下に隠れていたところ、何者かが家の中に入ってくる音が聞こえた。
近くのキッチンへ行く物音が聞こえた後、彼らは彼女たちがいる部屋に入ってきた。そして、1人の戦闘員がベッドに座った。そこは、ナジェーブさんが隠れていた真上だったという。
「ISが私たちを見つけなかったのは奇跡でした」。ナジェーブさんはそれ以上詳しく覚えていないというが、その時はただ携帯電話が鳴らないことを願っていたという。そしてしばらくして、司令官とみられる声が、戦闘員たちに家を去るよう命じた。
負傷した戦闘員1人だけが残った。彼はその後、浴室へ行き、自爆したという。幸いにも、その時までに、学生たちは1人ずつ裏口を通って家から抜け出ていた。
この脱出について、ナジャーブさんの母親ライラ・アジズさんは、「それは奇跡のようでした。神の御手が彼女たちを助けたのです」と語った。