大阪の阪急梅田駅から1駅、阪急中津駅にある私設博物館「南蛮文化館」の秋の展示期間が1日から始まった。同館は1968年に地元に住む北村芳郎氏が設立した施設の博物館で、戦国時代から江戸時代にかけて日本と欧州の交流に影響を与えた南蛮美術品を収集しており、重要文化財の「南蛮屏風」やキリシタン遺物の貴重なコレクションがあり、毎年5月11月の2カ月間のみ開館している。
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今年の秋は、安土桃山時代の大名、細川忠興の夫人で、キリスト教の洗礼を受けたことで知られる細川ガラシャ(本名:珠、1563~1600)が最後まで祈りに用いていた十字架や、キリシタン大名の高山右近が使用していた南蛮兜(かぶと)や書状などが展示されている。2年ぶりに同館を訪ね、館長の矢野孝子さんに話を聞いた。
今回の展示の目玉という、細川ガラシャが最期まで祈りに用いていたとされる十字架を拝見させていただいた。
純銅製の象嵌(ぞうがん)に一部金彩が施されている。表には父方である明智家の家紋である桔梗(ききょう)と、秋草とトンボが、裏面には竹と鶴が象嵌されている。
「確かに日本で作られた十字架ということです。日本的な風物を象嵌した女性的な感性と、父である明智家の家紋が彫られているところにガラシャの信仰と父光秀への思いを感じます」と矢野さん。
細川ガラシャは明智光秀の三女として生まれ、光秀が織田信長に仕えると、細川藤孝の息子忠興に正室として嫁ぐ。戦国一の美女とも言われ、忠翁と仲睦まじい夫婦として2人の子に恵まれる。しかし1582年、父光秀が本能寺の変を起こすと、珠は「逆臣の娘」となり、夫忠興によって隔離幽閉され、厳しい監視に置かれた。
この頃、忠興が友人だったキリシタン大名、高山右近から聞いたカトリックの話を聞き、キリスト教に心を惹(ひ)かれていったという。その後、侍女を通して屋敷にて密かに洗礼を受け、ガラシャ(Grace=神の恵み、の意)という洗礼名を受けた。しかし1600年に関ケ原の合戦に伴い、西軍の石田三成の手兵が細川屋敷を襲い、ガラシャは家老に介錯(かいしゃく)させ命を絶ったとされる。
矢野さんによると、ガラシャの死後、イエズス会修道士グネッキ・ソルディ・オルガンティノが細川屋敷を訪れて遺骨を拾い、堺のキリシタン墓地に葬ったとされており、その際にこの十字架も保管されたのではないかという。その後、カトリック信徒で、戦後エリザベス・サンダースホームを創立して孤児の救済運動を行っていた澤田美喜さん(1901~80)の手元に伝わり、澤田さんから矢野さんの父、北村芳郎さんに寄贈され、南蛮文化館に所蔵されることになった。
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10月17日には、人気テレビ番組「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」で細川ガラシャの特集が組まれ、NHK大河ドラマ「真田丸」で細川ガラシャを演じた女優の橋本マナミさんも同館を訪れて十字架を手に取り、その信仰に涙した。
番組の影響もあり、今月に入ってすでに200人以上が来館しているという。
このほかにも今回の秋の展示では、キリシタン大名として知られ、今年2月にはバチカンから福者として認定された高山右近が使用したとされる南蛮兜や、常設のイエズス会関連の美術品、「悲しみのマリア」などの絵画も展示されている。
矢野さんは「小さな私設の美術館ですが、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです」と語ってくれた。
■ 南蛮文化館
住所:大阪市北区中津6−2-18(阪急中津駅から徒歩3分)
電話:06・6451・9998
入館料:大人800円、大学・高校生600円、中学生500円(小学生は同伴者がいれば無料)
開館時間:午前10時~16時
開館日:5月1日~31日、11月1日~30日(月曜日閉館)
ホームページ:http://www.namban.jp/namban/