労働へ聖書的原則を適用した人の例
三谷康人氏〔28〕
三谷康人氏は、キリスト者であり長年にわたって鐘紡(株)で働いた方である。彼は入社11年後にキリスト教の信仰を持った。そして彼は信仰を持ってからは、この世で出世しようとか、偉くなろうとか、そういう価値判断の基準や仕事に対するスタンスが全く変わってしまった。そのため、会社において仕事か信仰かの選択を迫られたとき、ためらわず信仰の方を選択することができた。
また、彼はキリスト者として、自分の立場よりも、組織が危機に陥り、従業員が不幸になってはいけないということを最優先に考え、大胆な発言、行動をしたことも多かった。そのためもあってか、彼は3回の降格にあい、何回も職場が変わるという経験をした。しかし神は、人ではなく神が喜ばれる道を選択した彼の信仰を喜ばれ、彼を祝福し、最終的には鐘紡(株)の筆頭専務の地位にまで導かれた。
三谷氏は、企業人として必要な条件は、人望、使命感、ビジネスの実力であり、これらのバランスが重要であるという。そしてバランスという観点で見れば、信仰は大きな力となり、実力との相乗効果を発揮するものになるという。なぜなら、信仰は人望と使命感の一番掘り下げた底にある「愛」を生むからである。
人望の一番深いところには「無私」、自分を犠牲にするという「愛」がある。使命感も、世の中の役に立つ、自分を無にしても役に立つという「愛」である。それがキリスト教の信仰である。従って人望と使命感は、いかに強くキリスト教の信仰を持つかによって変わってくる。
三谷氏はまた、信仰とビジネスの実力には確かな相関関係、相乗効果があるという。例えば、同じ実力を持つ3人の信徒の信仰レベルが1から3の場合、信仰レベルが3の人は信仰レベルが1の人の3倍の力を発揮できる。従って信仰心が強くなればなるだけ、結果は素晴らしいものになる。これは信仰を持つ者の強みであると氏は言う〔29〕。
この三谷氏のように、信仰が労働に及ぼす影響をはっきりと述べている人は少ない。ただし三谷氏においても、信仰が労働に具体的にどのように働くかについては触れていない。三谷氏が言う信仰と企業人として必要な人望、使命感、ビジネスの実力との関係については、前述の「労働における聖霊の働き」によって説明することができる。
まず人望であるが、これはガラテヤ5・22〜23にある聖霊による9つの御霊の実(愛、喜び、平安、寛容、親切、善意、誠実、柔和、自制)が統合された品性と見ることができる。
次に使命感であるが、これは神の御心から生まれる使命を聖霊によって、いつも敏感に悟る状態といえよう。さらにビジネスの実力は、聖霊によっていろいろな御霊の賜物が備えられた状態ということができよう。
聖霊は労働において恐れずに意見を言うことができるようにすることを述べたが、この良き例をも三谷氏の中に見ることができる。彼は左遷されることを恐れず、自分の正しいと思う意見を堂々と述べることができた。労働への聖書的原則適用の素晴らしい実際的な例として、参考にしたい。
42人の日本人クリスチャン・ビジネスマン〔30〕〔31〕〔32〕
日本のクリスチャン・ビジネスマン42人が、どのような原則にのっとって自分たちのビジネスを進めているか、3冊の本に紹介されている〔30〕〔31〕〔32〕。これらの本に登場する42人の方々は、ビジネスを、自分のために行うものではなく、神から与えられた使命であり、他者のため、ひいては社会のために貢献する手段であると認識している。
従って、彼らは必ずしも物質的な祝福のみを求めてビジネスを行ってはいない。そして、一人一人が、異なる背景や状況にある中で、神に信頼すること、神と密な交流を持つこと、聖霊により頼むことなどにより、労働を神の御心にそった本来の労働の姿に回復させておられることがよく分かる。また各々が神様から祝福を、また平安と喜びを与えられておられることをも見ることができる。労働への聖書的原則適用の良き実際的な例として、参考にしたい。
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(参考並びに引用資料)
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[4]カール・F・ヴィスロフ(1980年)『キリスト教倫理』鍋谷堯爾訳、いのちのことば社
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[25]国際ハガイセミナー資料(シンガポール、2005年7月)
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・バンソンギ「キリスト教世界観」石塚雅彦訳、CBMC講演会資料(2005年)
・William Nix, 『Transforming Your Workplace For Christ』, Broadman & Holman Publishers, 1997
・ミラード・J・エリクソン(2005年)『キリスト教神学』第三巻、伊藤淑美訳
・ヘンリー・シーセン(1961年)『組織神学』島田福安訳、聖書図書刊行会
・ジョージ・S・ヘンドリー(1996年)『聖霊論』一麦出版社
・ウィリアム・ポラード(2003年)『企業の全ては人に始まる』大西央士訳、ダイヤモンド社
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