罪によって仕事としての労働の目的と理由はどう変化したか
罪の故に、労働はどのように変化してしまったのであろうか。そのことを示すために、労働の目的と理由の変化を以下に記す。
(イ)人間の罪のために、神が私たち人間に与えてくださった世界管理という労働の究極的目標は見失われ、その意義も見失われた〔10〕。労働は虚無に服した。アダムとエバの堕罪後においては、宗教と労働が分かれて、7日間の中で安息日が定められ、それ以外の6日間で労働が進められるようになった。
(ロ)神と隣人に仕えるのではなく、自己達成と物質的な富の獲得に主体が置かれるようになった。隣人は、金やその他の利益を得るための欲望の対象となった。
(ハ)労働は偶像となった〔2〕。
(ニ)労働は神の視点ではなく自分の視点から始めるもの、この世に調子を合わせたものとなった。労働における思いのベクトルは常に自己に向いており、全ての価値観の基準は自己となった。「私は」「私が」「私の」が全てであるようになった〔11〕。
(ホ)労働が搾取と抑圧の手段となった、ヤコブ5:4参照。地を、自らのために搾取するようになった〔2〕。
(ヘ)労働の遂行を苦痛と考えるようになった〔2〕。労苦による報酬という因果の鎖につながれるようになった〔10〕。労働は自発的で自由な協力のもとに進められる楽しいものではなくなり、強制秩序の下で力ある者に強制される、労苦に満ちたものとなった〔6〕。
(ト)労働の目的は、生計を立てるためや命の糧を得るため、物質的な富の獲得をするため〔2〕、自己の利益のため、お金を得るため、自立をするため〔20〕以上のものではなくなった。
(チ)労働は自己達成、自己満足、私欲のためのものとなった〔2〕。自分の楽しみのため、自分の願望を達成するため、自分の成長を願うためのものとなった〔7〕。そして自己表現の手段を得るためのものとなった〔20〕。
(リ)どのような仕事が理想的かという質問への答えは、1番目:収入が安定している仕事、2番目:自分にとって楽しい仕事、3番目:自分の専門知識や能力が生かせる仕事、4番目:失業の心配がない仕事である。これが現代人の考えである〔21〕。
以上のように、この世の仕事としての労働は、罪の故に、お金や物質的な報酬や自分の利益や自己達成ばかりを求めるものとなっており、神が願われる労働の本来の目的や理由からかけ離れた、豊かな実を結ぶものとは程遠い状態となっている。
《 参考文献を表示 》 / 《 非表示 》
(参考並びに引用資料)
[1]門谷晥一(2006年)『働くことに喜びがありますか?』NOA企画出版
[2]ジョン・A・バーンバウム、サイモン・M・スティアー(1988年)『キリスト者と職業』村瀬俊夫訳、いのちのことば社
[3]山中良知(1969年)『聖書における労働の意義』日本基督改革派教会西部中会文書委員会刊
[4]カール・F・ヴィスロフ(1980年)『キリスト教倫理』鍋谷堯爾訳、いのちのことば社
[5]唄野隆(1995年)『主にあって働くということ』いのちのことば社
[6]宇田進他編(1991年)『新キリスト教辞典』いのちのことば社
[7]山崎龍一(2004年)『クリスチャンの職業選択』いのちのことば社
[8]ケネ・E・ヘーゲン『クリスチャンの繁栄』エターナル・ライフ・ミニストリーズ
[9]D・M・ロイドジョンズ(1985年)『働くことの意味』鈴木英昭訳、いのちのことば社
[10]唄野隆(1979年)『現代に生きる信仰』すぐ書房
[11]ルーク・カラサワ(2001年)『真理はあなたを自由にする』リバイバル新聞社
[12]ヘンドリクス・ベルコフ(1967年)『聖霊の教理』松村克己&藤本冶祥訳、日本基督教団出版局
[13]ピーター・ワグナー(1985年)『あなたの賜物が教会成長を助ける』増田誉雄編訳、いのちのことば社
[14]ケネス・C・キングホーン(1996年)『御霊の賜物』飯塚俊雄訳、福音文書刊行会
[15]エドウィン・H・パーマー(1986年)『聖霊とその働き』鈴木英昭訳、つのぶえ社
[16]遠藤嘉信(2003年)『ヨセフの見た夢』いのちのことば社
[17]唄野隆(1986年)『主に仕える経済ライフ』いのちのことば社
[18]東方敬信(2001年)『神の国と経済倫理』教文館
[19]E・P・サンダース(2002年)『パウロ』土岐健治&太田修司訳、教文館
[20]松永真里(2001年)『なぜ仕事するの?』講談社
[21]厚生労働省編(2005年)『労働経済白書(平成一七年版)』国立印刷局発行
[22]ダニエル・フー「Goal-Setting」、国際ハガイセミナー資料(2005年、シンガポール)
[23]ジョン・ビョンウク(2005年)『パワーローマ書』小牧者出版
[24]ジョン・エドムンド・ハガイ(2004年)『聖書に学ぶリーダーシップ』小山大三訳、ハガイ・インスティテュート・ジャパン
[25]国際ハガイセミナー資料(シンガポール、2005年7月)
[26]ポール・J・マイヤー(2003年)『成功への25の鍵』小山大三訳、日本地域社会研究所
[27]国内ハガイセミナー資料(名古屋、2004年11月)
[28]三谷康人(2002年)『ビジネスと人生と聖書』いのちのことば社
[29]安黒務(2005年)「組織神学講義録、人間論及び聖霊論」関西聖書学院
[30]平野誠(2003年)『信念を貫いたこの7人のビジネス戦略』アイシーメディックス
[31]マナブックス編(2004年)『バイブルに見るビジネスの黄金律』いのちのことば社
[32]マナブックス編(2006年)『バイブルに見るビジネスの黄金律2』いのちのことば社
[33]山岸登(2005年)『ヤコブの手紙 各節注解』エマオ出版
[34]野田秀(1993年)『ヤコブの手紙』いのちのことば社
[35]デイビッド・W・F・ワング(2008年)『最後まで走り抜け』小山大三訳、岐阜純福音出版会
(その他の参考資料)
・林晏久編(2004年)『刈り入れの時は来た—ビジネスマン・壮年者伝道ハンドブック』いのちのことば社
・大谷順彦(1993年)『この世の富に忠実に』すぐ書房
・H・F・R・キャサーウッド(1996年)『産業化社会とキリスト教徒』宮平光庸訳、すぐ書房
・鍋谷憲一(2005年)『もしキリストがサラリーマンだったら』阪急コミュニケーションズ
・マックス・ヴェーバー(1989年)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』大塚久雄訳、岩波書店
・小形真訓(2005年)『迷ったときの聖書活用術』文春新書
・ウォッチマン・ニー(1960年)『キリスト者の標準』斉藤一訳、いのちのことば社
・ロナルド・ドーア(2005年)『働くということ』石塚雅彦訳、中公新書
・共立基督教研究所編(1993年)『聖書と精神医学』共立基督教研究所発行
・生松敬三(1990年)『世界の古典名著・総解説』自由国民社
・バンソンギ「キリスト教世界観」石塚雅彦訳、CBMC講演会資料(2005年)
・William Nix, 『Transforming Your Workplace For Christ』, Broadman & Holman Publishers, 1997
・ミラード・J・エリクソン(2005年)『キリスト教神学』第三巻、伊藤淑美訳
・ヘンリー・シーセン(1961年)『組織神学』島田福安訳、聖書図書刊行会
・ジョージ・S・ヘンドリー(1996年)『聖霊論』一麦出版社
・ウィリアム・ポラード(2003年)『企業の全ては人に始まる』大西央士訳、ダイヤモンド社
◇