天才だが傲慢(ごうまん)なエリート外科医、刑務所帰りだが大人気のカリスマ神父、という住む世界の全く違う2人の出会いが起こした生涯最高の奇跡を描く、イタリア映画「神様の思し召し」が8月27日から、全国で順次公開されている。
2015年の東京国際映画祭で最も客席を沸かせ、観客賞の栄光に輝いた本作は、11年の同映画祭で大喝采を浴び、のちに劇場公開されてスーパーヒットを記録したフランス映画「最強のふたり」を彷彿とさせる笑いと涙と感動に溢れる作品として、大きな話題を呼んでいる。
主人公は、目に見えるものだけを信じて心臓病を治す医師と、見えないものこそを信じて人生を治す神父。真逆の立場で人を救ってきた2人が、出会い、対決する中で、いつの間にか芽生えたまさかの友情の行方を描き出す。
監督は、イタリアで脚本家としてのキャリアを誇るエドアルド・ファルコーネ。本作が、47歳にしての監督デビュー作となった。「イタリアでは、トンマーゾのような万能で自分は神であるかのように振る舞う医者が多い。もちろん技術は優れているが、性格に難がある人物だ。思い上がった利己的な医者を物語の中心に据え、そんな彼の人生観がひっくり返る物語を作りたいと思った」と語るファルコーネ監督は、科学の象徴である医者に対し、宗教の象徴である神父という、相反するキャラクターを配し、科学と宗教の対比を描くことにしたという。
そして見事に、自分のことしか考えなかった医師の人生と価値観が、型破りな神父との出会いによってひっくり返されるまでの顛末(てんまつ)を、ハートフルな大人のコメディーとして仕上げた本作は、イタリアで2015年4月に公開されると、観客の深い共感を呼んでロングランヒットを記録。イタリアのアカデミー賞であるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の新人監督賞に輝き、主演男優賞にもノミネート。さらに日本でも、15年の東京国際映画祭にて、一般の観客が選ぶ最高賞、観客賞を受賞した。
■ ストーリー
今日も完璧なオペで、患者の命を救った心臓外科医のトンマーゾ。医師としては天才だが、傲慢で毒舌で周りからはケムたがられていた。ボランティアが趣味の妻との仲は倦怠気味で、お気楽な長女はサエない男と結婚。でも、頭脳明晰な長男が医学の道を継いでくれれば満足だ。ところが、あろうことか医大生の息子が「神父になりたい」と宣言! 表向きはモノわかりのいいフリをして教会に潜入したトンマーゾは、息子がハデなパフォーマンスで人気のピエトロ神父に"洗脳"されているとニラむ。さらに、神父が実は"前科者"であることが判明。トンマーゾは、失業して無一文で妻からはDVを受け、もうどん底だと悩む信者を演じて神父に近づく。すると、親身になった神父に家族に会いに行くと言われてしまい、追い詰めるはずが追い詰められるトンマーゾ。果たして、神父の正体は? 崩壊寸前の家族の行方は―?
イタリア映画らしい陽気な笑いのエッセンスに加え、人間ドラマの奥行きも加味され、ファルコーネ監督の「軽いコメディーであるが、軽すぎない。世知辛い現代社会において、人の心の優しさに気付かせてくれる作品にしたかった」という思いが込められた本作品。どんな人間も、やわらかくて優しい心を持って生まれてくる。年を重ねるうちに歪んだり固まったりしてしまうけれど、きっかけさえあれば、いつでも元に戻ることができる─そんな人生がもっと好きになる気付きを与えてくれる、笑って泣ける人生讃歌。イタリアの日差しが感じられるような、まだ夏の暑さの名残りがあるこの時期にぴったりの映画だ。
■ 映画「神様の思し召し」予告編