メキシコ出身の新鋭監督アレハンドロ・モンテヴェルデが、米国の少年と日系人との友情を通して本当に大切なものは何であるのかという戦争や人生へのメッセージを描き、メキシコを代表する映画業界賞「ルミナス賞」で3冠を受賞した映画「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」が27日から、全国で順次公開されている。
舞台は第2次世界大戦下、米西海岸の小さな町。誰よりも背が低いために「リトル・ボーイ」とからかわれる1人の少年ペッパーは、戦場に駆り出された大好きな父親を呼び戻したいという願いを神に伝えるために、司祭から渡された、聖書の愛の教えに基づくリストを1つずつ実行していく。
公開初日を迎えたヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)では舞台あいさつが行われ、主人公の少年ペッパーに勇気を与える日本人将校マサオ・クメ役を演じた、ハリウッド在住の俳優・尾崎英二郎が来日して登壇。5年前に行われた撮影時の思い出や、役に込めた思いを語った。
「脚本を見たときから、この映画は絶対に日本に届くと信じていた」という尾崎は、午前中から劇場に足を運んだ多くの観客を前に「幸せ」と感想をもらし、感謝の気持ちを述べた。本作の撮影が行われたのは、東日本大震災が発生した数カ月後のこと。尾崎が本作の台本と出会ったのは「まだ日本が苦しい思いで沈んでいるときに、太平洋を越えた向こうで、自分は無力で何もできないと思っていたとき」だったという。
日本人将校という役柄は、「ラストサムライ」や「硫黄島からの手紙」でも演じた経験があり、役作りの心構えはできていたという尾崎が、今回のマサオ・クメを演じるに当たっては「何のために戦うのかということをすごく考えた」という。「1人の俳優の力では、あの巨大な波を押し返すことはできないが、もし僕がマサオ・クメとして巨大なものに命を懸けて戦って挑み、襲ってくるものを押し返すことができたならば、この役を演じることで日本の被災した人々を勇気づけ、励ますことができる作品になるだろうという全力を役に込めた」
マサオ・クメは最初、15歳の設定で台本が仕上げられており、一度は「10代の子を雇うことに決めた」と言われてしまったという。しかし、初めて台本を読んだときに「本当に素晴らしい内容で、俳優として、人間として自分が考えているそのままだ」と感じた尾崎は、その勢いのままに監督に直談判。アクションシーンを演じきってみせ、「君のために年齢設定を書き換える」と監督に言わしめて出演が決定したという、本作のストーリーさながらの「諦めない強い思いが世界を変える」秘話も披露された。
70~90年代のハリウッド映画に描かれるステレオタイプの日本人像や、日本人には不自然に感じられる日本の描写を見、自分がこれを変えていけないかという決意を抱いて渡米した尾崎。本作については、兄家族が日本に住んでいたり、本人も日本に長く滞在した経験があるという監督自身、これまでの映画の日本の描写に違和感を覚えていたそうで、尾崎ら日本人俳優の意見がしっかりと取り入れられた作品になっていると、太鼓判を押す。
「撮影しただけでは映画にならない。仕上げがなされて、この作品を発見し、買い付けて日本の劇場にかけてくれた人がいて、こうして皆さんに見ていただき、何かを感じていただいて初めてフィルムが映画になる」と話した。
■ ストーリー
米国が第2次世界大戦を戦っている頃、カリフォルニア州の小さな漁村で暮らす8歳のペッパーはとても背が低く「リトル・ボーイ」と揶揄(やゆ)されていた。唯一の友達であり、相棒は父親のジェイムズ。父親のようになりたいと全てを真似していた。父親の英雄である奇術師のベン・イーグルに一緒に夢中になり、空想の中での冒険ごっこに興じていた。世の中は戦争一色だったが、平穏で幸せなバズビー家はずっと続くと思っていた。
しかし、偏平足を理由に兄のロンドンが入隊審査に落ちてから、一家の空気は一変する。ロンドンに代わってジェイムズが徴兵されることになったのだ。「すぐに戻ってくる」というジェイムズの言葉を信じ、ジェイムズが欲しがっていたウェスタン・ブーツとベン・イーグルのマジック・ショーのチケットを2枚買って待つペッパー。その日、バズビー家に、ジェイムズがフィリピンで日本軍の捕虜になったという知らせが届く・・・。
ジェイムズが心配で、食べ物が喉を通らないペッパー。母親のエマはロンドンに、ペッパーをベン・イーグルのマジック・ショーに連れ出すよう言いつける。ジェイムズとの時間を思い出して少し元気を取り戻したペッパーは、ベンにアシスタントとして壇上に呼ばれ、ビンを動かすことに成功。自分もベンのような力が使えるのではないかと信じるペッパーは、戦場の父親に向かって念を送り始めた。
そんなある日、合衆国への忠誠を示した日系人が収容所から釈放されるというニュースが流れ、ペッパーたちの住む町にハシモトが現れた。「ジャップは出て行け!」。ペッパーはジェイムズを捕虜にした日本兵を想像し、ハシモトの家に石を投げつけ、窓を割ってしまう。
次の日、ペッパーは教会に呼び出される。オリバー司祭はペッパーにビンを動かしてほしいと頼む。ペッパーは必死で念を送るが、ビンはもちろんびくともしない。しばらく念を送り続けていると、オリバー司祭がビンを机の端に動かした。「君の力で私の手が動いた。ビンを動かしたいという君の願いが私を動かした」と話し、信仰の力が神様に届けば願いはかなうかもしれないと諭した。そしてそのために、古くから伝わるリストに「ハシモトに親切を」と書き加え、全てやり遂げることが信仰を神様に伝えることなのだと教えた。
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・飢えた人に食べ物を
・家なき人に屋根を
・囚人を励ませ
・裸者に衣服を
・病人を見舞え
・死者の埋葬を
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司祭の言葉を信じたペッパーは、リストを1つずつ実行していくが、周囲の人々はそんなペッパーの「思い込み」をばかにする。「からし種1粒ほどの信仰心があれば、山だって動かせる」という素直でひたむきなペッパーの信仰は神を動かし、海を越えた遠い戦場にいる父親にまで届くのだろうか。
本作は「ライフ・イズ・ビューティフル」や「リトル・ダンサー」に続く、父と息子の絆の物語としても全米に大きな感動をもたらしたが、父子の愛を軸に、日系人との交流を通した日米のそれぞれの信念、戦争下での差別主義をも描き出し、少年の視点から戦争と平和を切り取った普遍的なメッセージに溢れる映画だ。
主人公のペッパーを演じた、ほぼ未経験だというジェイコブ・サルヴァーティくんの演技はもちろん、母親役の英女優エミリー・ワトソン(「戦火の馬」、「博士と彼女のセオリー」)、司祭役の英俳優トム・ウィルキンソン(「フィクサー」、「グローリー/明日への行進」)、ハシモト役のケイリー・ヒロユキ・タガワ(「HACHI 約束の犬」、「47RONIN」)など、脇を固める多彩な顔ぶれにも注目が集まる。
映画「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」は27日から、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国で順次公開されている。ペッパー少年の目線で切り取られた本作を、ぜひ多くの子どもたちに見てもらい、家族や友人と夏休み最後の思い出を作ってもらいたいと、ヒューマントラストシネマ有楽町では夏休み最終日の8月31日(水)まで、小・中学生が無料で鑑賞できるキャンペーンを実施している。
■ 映画「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」 小・中学生無料キャンペーン概要
・期間:2016年8月27日(土)~8月31日(水)
・対象劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町
・キャンペーン概要:期間中に来場の小・中学生は対象作品を無料で鑑賞できる。小学生は自己申告、中学生は学生証の提示が必要。(当日窓口のみ/ネット予約不可)