文化庁の文化審議会は25日、再来年の世界文化遺産登録を目指し、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎県、熊本県、以下:長崎の教会群)を正式に推薦することを決定した。今後、2017年2月までに正式版の推薦書を国連教育科学文化機関(ユネスコ)へ提出し、同年9月から10月ごろの国際記念物遺跡会議(イコモス)による現地調査を経て、18年夏に開催される第42回世界遺産委員会で登録の可否が審議されるという。
今回の文化審議会では、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」「北海道・北東北の縄文遺跡群」「百舌鳥・古市古墳群」の4件の国内候補について審議がなされたが、その中から長崎の教会群が「長崎地方の潜伏キリシタンが禁教期に密かに信仰を続ける中で育んだ宗教に関する独特の文化的伝統を物語る顕著な物証」であると世界遺産としての普遍的価値を認められ、推薦が決定。長崎の教会群を構成する資産は12で、以下の通り。
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」12構成資産
▽大浦天主堂(長崎市)▽外海の出津集落(長崎市)▽大野集落(長崎市)▽黒島の集落(佐世保市)▽平戸の聖地と集落(春日集落と安満岳)(平戸市)▽平戸の聖地と集落(中江ノ島)(平戸市)▽久賀島の集落(五島市)▽江上集落(五島市)▽原城跡(南島原市)野崎島の集落(小値賀町)▽頭ヶ島の集落(新上五島町)▽天草の﨑津集落(天草市)
長崎の教会群は16年の枠でも正式に推薦されており、15年秋には、ユネスコの諮問機関で事前審査を行うイコモスによる調査も行われていた。しかし、今年1月中旬にイコモスから推薦書の改定を勧める報告が日本政府に提出され、2月9日に推薦の取り下げがなされた。世界文化遺産の推薦は各国年1件のみ可能で、17年推薦枠には福岡県の「『神宿る島』宗像むなかた・沖ノ島と関連遺産群」が既に決まっているため、今回再推薦が決まったが、長崎の教会群の審議は18年に行われることになる。
推薦取り下げ後、文化庁や関係県市町はイコモスとのアドバイザー契約に基づく助言を受けながら、構成資産などの見直しを行い、推薦書の熟度をより高めるために説明文を改訂するなど、あらためて世界遺産登録実現に向けた活動に力を注いできた。
特に、禁教期に焦点を当てた「顕著で普遍的価値(OUV)」が協議の中心となり、各資産がOUVへいかに貢献するかについて検討が重ねられてきた。その中で、イコモスが、日野江城跡・田平天主堂の2つの資産については、禁教期との関連を示す物証がなく、OUVに貢献することができないと評価したことを受けて、5月29日、関係県市町長で構成する「世界遺産登録推進会議」において、早期かつ確実な登録を目指すために、その2資産を除く12資産で推薦書を再構成することが決定された。
長崎の教会群の再推薦決定を受けて、長崎市の田上富久市長は、「大変うれしく思う」とコメント。「イコモスからの『禁教・潜伏期』に焦点を当てて推薦内容を見直すべきとの中間報告により、本年2月にいったん推薦を取り下げた。その後、国や長崎・熊本両県、並びに関係する6市2町は、イコモスからの助言と支援を受けながら、短期間のうちに非常に密度の濃い作業を行うことで推薦内容の見直しを行ってきた。そしてこの間、2つの構成資産を除外するという苦渋の選択も行った。この一連の困難な作業を乗り越えてきたが故に、本日の文化審議会において、あらためて国内推薦候補として選定されたものと認識している」と、これまでの活動を評価。関係者への感謝を述べるとともに、「今後とも、『長崎の教会群』の平成30年の世界遺産登録を目指し、全力で取り組んでいく」と決意を新たにした。