今月9日から17日まで、長崎と広島を舞台に開催されるアート・ワークショップ「Shadow People」。日本、米国、南アフリカの若者12人が選抜され、長崎と広島を訪れて原爆の歴史を学び、被爆者との対話を通してプロのアーティストと共に絵画、映像、写真、音楽などのアート作品の制作に当たる。
作品は、広島、長崎、大阪、東京、ニューヨーク、ヨハネスブルグで世界に向けて発信される予定だ。これに先駆け、5日には都内で記者会見が行われた。
ワークショップのテーマは「Meaning of Memory―記憶の意味」。原爆投下以来、被爆者の歩んできた道はどのようなものだったのか。被爆者と対話し、歴史を学ぶ中で「記憶の意味」を共に考え、表現していく機会を提供する。
「被爆者の中には、周りからの差別に苦しんだり、また被爆したことのトラウマから、なかなか真実を語らない人もいる。しかし、彼らが記憶を語ることによって、世界で3つ目の核爆弾は、70年以上たった今でも落とされていない。彼らが語ってくれること、そしてそれを発信することで、3つ目の原爆を投下させないための抑止力のようなものになっているのでは」と、今回のワークショップを企画したテレビプロデューサーの西前拓氏は話す。
ワークショップでは、世界の若者と共に、日本だけではなく、人類共通の問題として「核」「被爆」と向き合う。西前氏とアーティストの黒田征太郎氏、キャノン・ハーシー氏、秋葉忠利広島前市長らが中心となってプロデュースする。
原爆投下後、「爆心地の周辺には、人の影だけが残った」と言われている。原爆の非人道性を象徴する「Shadow People」。影しか残らない殺され方とは、一体どんなものなのか。
「しかし、この『Shadow People』は日本だけのものではない。南アフリカにも、ある巨大な力によって抑圧されている人々がいる。このプロジェクトは、そうした光の当たらない人々にも光を当てて、共に考えていこうというもの」と西前氏は会見で説明した。
また、原爆を投下した米国、そして世界で唯一の被爆国である日本に加え、なぜ南アフリカの若者を招聘(しょうへい)するに至ったかといった質問に対し、「南アフリカは、核兵器を以前、保持していたが、マンデラ大統領になったときに核兵器を持たないことを決めた。南アフリカは、保持していたけれども、自らの国の意思で核を捨てた世界で唯一の国。この功績は大きいと思い、南アフリカから若者を招聘することにした」と話した。
■ 昨年のアート・ワークショップ紹介動画
昨年のワークショップで制作したものは、ニューヨークのタイムズスクエアでプロジェクションアートにして上映した。今年も同じ場所で、広島に原爆が投下された8月6日に上映する予定だ。
「広島については、オバマ大統領が訪問したことで、アメリカ国内でも関心が高まっている。一方で、信じられないことだが、原爆の事実を知らないアメリカ人が多い。タイムズスクウェアを歩いているほとんどの人たちがもしかして知らないのでは・・・と感じる」
「このプロジェクトをやったからといって、すぐに答えを求めているわけではない。物事というのは、『答え』よりも『問い』が重要だと感じる。その『問い掛け』に、このプロジェクトが役立てば・・・と思う。タイムズスクウェアを行き交う人々に問い掛けることも、このプロジェクトの意味の1つなのでは」と西前氏は話す。
24日には、広島の旧日本銀行広島支店でアートの展覧と映画上映、被爆経験者と世界の若者とのシンポジウムも開催する。詳しくは、フェイスブックページ。