ハイドンやモーツァルトが活躍した18世紀のウィーンのミサ曲を中心に、楽しみながら歌い、学び合うことを目指して2014年6月に立ち上げられた混声合唱団「オラショクラブ」の第2回演奏会「オーストリアの教会音楽」が9日、カトリック麹町聖イグナチオ教会の主聖堂(東京都千代田区)で開かれた。
今回の演奏会には、ウィーン・イエズス会教会指揮者のアンドレアス・ピクスナー氏が招聘(しょうへい)され、同氏の下で研さんを積んだ4人のソリストを迎えた。主聖堂はほぼ満席というほどに大勢の来場者で溢れ、オーケストラの演奏に合わせて披露された、ハイドンやモーツァルト、シューベルト作曲のミサ曲・教会音楽8曲に静かに耳を傾けた。
ピクスナー氏は、ウィーン大学のカトリック教会音楽過程を最優秀の成績で卒業後、シェーンブルン王宮礼拝堂の合唱団とオーケストラやウィーン少年合唱団などで教鞭をとった人物。2004年からは、オーストリア国内外で広く知られている聖アウグスティン合唱協会と、ウィーン交響楽団やウィーン国立歌劇場のソリストらと共に、ウィーン・イエズス会教会で、ミサ曲の公演を行っている。
ウィーンの中心にあるイエズス会教会は、シューベルトがサリエリに指導を受けたコンピクスト(現在のウィーン少年合唱団)があった伝統ある教会。ピクスナー氏らが公演するのは毎週違う楽曲で、参加する合唱団はアマチュアながら、一度の練習だけで本番を見事に歌い上げてしまうのだそう。
今回のソリスト、オラショクラブの代表で合唱指導をしている奥村泰憲氏(バス)と、山崎法子さん(ソプラノ)、後藤裕美さん(ソプラノ)、木下紀章氏(テノール)の4人はプロとして、ウィーン留学時代にイエズス会教会合唱団に協力、ピクスナー氏のもとで多いに刺激を受けた。
特に、奥村氏は当時から「このような素敵な合唱団をいつか日本に作りたい、ピクスナー氏を日本に招きたい」と思いをあたためていたという。オラショクラブが立ち上がった半年後の元旦には、有志のメンバーがイエズス会教会でモーツァルトの「雀のミサ」の演奏に参加し、その際にピクスナー氏来日の話が持ち上がった。
そして今回、オラショクラブの活動に理解を示すオーストリア大使館の協力を得て来日が実現、同じくイエズス会のカトリック麹町聖イグナチオ教会での演奏会開催に至った。
「教会音楽への愛を皆様と分かち合えることを大変うれしく思う。今回の4人のソリストとはウィーンで知り合って以来よく一緒に演奏してきたので、再会して共に演奏できることを楽しみにしていた」というピクスナー氏。「和を尊ぶ性格で彼の合唱団全員から愛され尊敬されている」と奥村氏の言う人物像そのままに、常に微笑みを浮かべながら、表情豊かに合唱団とオーケストラに指示を出す姿が印象的だった。
オーケストラと合唱による迫力あるハイドンの「ユーゲントミサ」に始まり、オーケストラのみの透き通るような旋律、ソリストの聖堂いっぱいに響き渡る歌声に、来場者は静かに耳を傾け、奥村氏が「彼の音楽はダイナミックかつ繊細、オーストリアの伝統に基づく音楽作りが非常に印象的」と評するピクスナー氏の指揮による、本場の演奏を味わった。
オラショクラブの団長を務める今田毅さんは、「ピクスナー氏のおかげで、宗教曲を扱うアマチュア合唱団として大変貴重な経験を積ませてもらい、感謝の念にたえない。私たちには、『心と身体の健康』『国際交流』『被災地支援』そして『400年続く合唱団』という目標がある。発足から2年というまだまだ未熟な団体ではあるが、今後も目標は常に高く、新しいチャレンジにも取り組んでいきたい」と意欲を示した。