6月7日から9日まで大阪で開かれた「9条世界宗教者会議」の声明「危機を平和への転機に」が、同会議で配布された冊子と共に1日、日本キリスト教協議会(NCC)の公式サイトに、日本語と英語および韓国語で発表された。
戦争の放棄と戦力の不保持をうたった日本国憲法9条の全文で始まるこの声明は、安倍政権による憲法9条の改変が深刻な不安を東アジア地域にもたらし、危機と緊張を深め、軍事演習が地域の緊張を高めていると指摘。その上で「しかし、私たちは、この危機的状況をむしろ平和へと転換させなければなりません」としている。
「この会期中、私たちは多くの在日韓国・朝鮮人の悲壮な差別の現状と歴史を感動的な発表やフィールドワークで学び、高名な宗教家の告白を聴き、若い世代の未来に向けての豊かな夢とその夢の実現にむけての計画を聴くと同時に、私達が皆、構造的暴力に加担させられてきたことを改めて検証する機会を得ました」と、同声明はこの会議の内容を報告している。
「このような過程を通して私たちは、平和で平等な世界の実現という宗教者としての共通の希望を確認し、過去の過ちを公に謝罪してそのような世界に向け邁進(まいしん)する責任を痛感しました」と、同声明は続けている。
その上で同声明は、次の8つの点を主張している。
「(1)日本は周辺国に対して脅威や政治的不安要素になるべきではありません。安倍政権の憲法解釈は立憲政治や近代政治の基礎を脅かし、日本の軍事行動に道を開くものであり、私たちはそれらに強く抗議します。また、2015年の平和安全法制関連法を撤回することを求めます。平和安全法制で平和は築けません。
(2)安倍政権は、近代日本の侵略、植民地支配の歴史を直視し、その反省を世界に対して明確に表明すべきです。日本国民による不戦の誓いでもあった憲法9条を守ることはもちろん、過去の日本政府見解を維持すべきです。日本政府の誠実な反省こそが、平和をもたらす基礎となるのです。
(3)憲法9条の精神を踏みにじり戦争を美化する政府閣僚らの靖国神社公式参拝は行うべきではありません。宗教者として私達は軍国主義的ナショナリズムの高揚への宗教のどのような濫用(らんよう)にも反対します。私達宗教者は、靖国神社の軍国主義的ナショナリズムに果たす役割を拒否し、憲法9条の精神の高揚に邁進します。
(4)『領土』紛争については、すべての国は憲法9条の精神に沿って、相手と対話し、外交交渉によって解決すべきことを求めます。また、いずれの国も、武力による威嚇(いかく)、武力行使を拒否することを要請します。それは国連憲章違反であり、1972年日中共同声明、1978年日中平和友好条約違反です。外交交渉をせず、一国のみが発展することはありえません。
(5)軍事基地により沖縄県民が被っている危険、基地移転のための新基地建設にともなう環境破壊の危機は不正義の極みです。米兵、軍属による沖縄県民、市民への際限のない犯罪行為や絶え間ない航空機の爆音など米軍基地による負担の撤廃に日米両政府は直ちに取り組むべきです。私たちは米軍基地、米軍部隊、武器を米国本土に返還するよう要求します。
(6)軍拡は、東アジア地域全体の平和と安定を脅かします。特に、核開発競争は命と平和を根本から脅かすものです。したがって、南北朝鮮は1992年に締結した『朝鮮半島の非核化に関する共同宣言』を再確認すべきです。2005年、6者協議で合意した『朝鮮半島の非核化実現のための共同声明』をすべての参加国が再確認し、核開発からの撤退に進むよう要請します。同時に、現在の休戦状態を朝鮮半島の恒久平和に転換すべきです。
(7)原子力の平和利用も平和ではありません。日本は原子爆弾と現在も続いている福島の悲劇を経験しており、米国の核の傘からはずれ、隣国とともに東北アジアの非核地帯を創設すべきです。
(8)平和憲法第9条はアジアの痛ましい歴史体験を基礎につくられました。その遺産を擁護するために私達宗教界は、日本軍性奴隷、南京虐殺、強制労働など歴史上の真実を想起し尊重することが重要であると考えます。私たちは、和解、正義、相互尊重、に協力し、犠牲者の声を注意深く聞き続けていきます。私たちは教育を通して私たちの闘いの歴史を若い世代に手渡します。すべての人々の間に愛情を育む決意を新たにします」
その上で同声明文は、「私たちは、すべての信仰共同体がこの声明文を祈りのうちに深め、支持し、個人としても共同体としても積極的に行動するように勧めます」と述べ、「私たちは、2014年12月5日の第4回協議会で発表した声明文の末尾の『行動への提案』(本紙関連記事はこちら:「9条世界宗教者会議、声明採択 WCC総幹事『他者と敵対するナショナリズムは危険』」)の項目のまだ実現していない項目を引き続き取り組むことを確認しました」と付け加えている。
そして本文の最後に、旧約聖書のイザヤ書2章4節「主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」と、仏教の経典である『無量寿経(むりょうじゅきょう)』から「兵戈無用(ひょうがむよう)」という言葉を引用してこの声明文を結んでいる。
さらに、参考として、第4回9条世界宗教者会議声明から、宗教界と市民社会に向けた「行動への提案」の全文が引用されている。