JR嵯峨野線花園駅にほど近い場所にある日本ナザレン教団花園キリスト教会(京都市右京区)。毎日のように多くの子どもたちが集うこの場所には、小さな水族館がある。今、この水族館が存続の危機に直面している。同教会の篠澤俊一郎牧師に話を聞いた。
国内外の支援活動
篠澤牧師は、上智大学と日本ナザレン神学校に在学中、ホームレス支援活動、青少年育成活動などを精力的に行ってきた。2010年に同教会の主任牧師に就任。1年後の東日本大震災時には、宮城県を中心に支援活動を行い、現場の責任者として1年の3分の1を宮城県で過ごした。震災支援報告会は、米国、台湾などをはじめ、海外でも行った。現在は、エイズや貧困で苦しむアフリカ諸国への支援を模索しつつ、教会のある京都市では、地域の子どもたちへの支援も行っている。
生きた魚を見たことのない子どもたち
篠澤牧師は、幼少期を自然豊かな島根県出雲市で過ごした。田んぼでザリガニを釣り、川で泳ぐ魚の姿を見て、夏になれば虫捕りに明け暮れた。
住まいが京都市に移ってからも、長女を連れてザリガニ釣りに出掛けることが度々あった。釣果を教会玄関にある水槽に入れると、それを眺めている子どもたちの目はいつもキラキラとしていた。
ある日、教会を訪ねてきた少年が、「生きている魚を見たことがない」と話したのを聞き、篠澤牧師は心底驚いた。住宅街にあるこの教会の周りには、確かに自然が少ない。
「子どもたちの世界観を広げるお手伝いができれば・・・」と、少しずつ水槽を増やし、アマゾンの魚など、珍しい魚を仕入れては、水槽へ入れて飼い始めた。また、東日本大震災時の停電などの影響で、魚を手放す人も多く、それらを篠澤牧師が引き取って飼い始め、徐々に種類が増えていった。
水槽の数も増えてきたことから、2014年4月には、水槽を教会の集会場に移すことに。教会の子どもたちが友達を呼んできたりするうちに、「ここを小さな水族館として、開放してはどうか」と考えるようになった。
そして、同年12月、正式に「花園教会水族館」としてオープン。誰でも無料でこの魚たちが見られるよう、一般公開を始めた。
全ての子どもを受け入れるために
こうして水族館に訪れる子どもたちは、やがて教会で日が暮れるまで遊んだり、そこで宿題をしたりするようになった。「夏休みは、家に誰もいないから、大嫌い!」と話すシングルマザーの子、共働きのため、夜になるまで両親が家にいない子などもいた。
障がいのある子どもたちも水族館に訪れ、保護者からは「普通の水族館は入場料金も高く、なかなか子どもを連れていくことができない。子どもが奇声を上げてしまったり、走り回ったりしてしまうので、入りづらいといった事情もある。ここでは温かく迎えてもらえるから、いつでも来ることができる」と話されたこともあった。
日曜日には教会学校にも参加する子どももいるが、礼拝中に走り回ってしまったり、大きな声を出したりする子どもたちを見て、教会メンバーと篠澤牧師は、「この先、こうした子どもたちが何人も来たら、教会で抱えきれるだろうか」と悩んだこともあった。
教会メンバーは、「彼らを排除するのではなく、もっと知って、もっと愛していこう」と、2年間にわたって勉強会を開いた。
現在では、「花園ジョイフル子ども会」(会員数84人)として、40人以上の子どもたちが出入りする教会になった。学生ボランティアなどの手を借りながら、ほぼ毎日教会を開放。学校が終わると、子どもたちが続々と教会へやってくる。
学生ボランティアのリーダーとして働いている京都大学の学生は、ボランティアをしながら聖書に触れ、2015年、受洗の恵みにあずかった。
水族館存続の危機?!
「神様のご計画は、私たちの思いをはるかに超える」と篠澤牧師は話す。これまで多くの人々の手が差し伸べられ、運営を続けられてきた。しかし、今年に入って大きな問題が浮上した。
水槽が多くなると、当然床にかかる圧力が大きくなる。水族館の来館者や子どもたちが走り回るのだから、さらに不安は大きくなる。建築士に聞いたところ、その不安は的中した。「このままだと地震などの災害時に床が抜けて危ない」というのだ。
篠澤牧師の不安をよそに、子どもたちは魚の水槽の前から離れない。ある日、この水族館がさまざまな危機にあることを子どもたちに話すと、子どもたちは、小さな手でポケットから小銭を取り出し、カンパ箱に入れ始めた。
その光景を見たとき、「泣きそうになった」と篠澤牧師はブログに記している。現在、同教会では、「花園教会水族館存続プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングで隣接する教会ガレージへの水族館移設・改修費用の資金を募っている。詳しくは、花園キリスト教会のホームページまたはクラウドファンディング「READYFOR」のプロジェクトページ。