第一次世界大戦下のイタリア山岳部の部隊を描いた映画「緑はよみがえる」が現在、東京・神保町の岩波ホールで上映されている。1日には、少佐役で主演俳優のクラウディオ・サンタマリアさんが会場を訪れ、映画を観賞したファンらにあいさつした。
同作は、イタリア映画界の巨匠エルマン・オルミ監督が脚本を手掛け、メガフォンを握った。クリスチャンであることを公言しているオルミ監督は、同作の中で、「人が人を赦(ゆる)すこと」をテーマに、志願兵として戦地に赴いた自身の父親が、幼いオルミ監督に話したエピソードを作品として描き、本作を「父にささげる」としている。
第一次世界大戦開戦100年の2014年、イタリアで封切られた同作は、イタリアの首相も駆けつけるほどの話題作となった。「戦争の悲惨さを現代の若者にも・・・」との思いから、イタリア国内では、公立学校でも上映されたという。
同作の舞台として、オルミ監督は、父から聞かされた前線のイタリア北部の雪山を選んだ。オーストリア部隊の息遣いが聞こえてきそうな最前線の暗い塹壕の中で、静かに繰り広げられる人と人との愛情、憎悪、苦悩・・・刻々と迫る死の影におびえながら日々を過ごす兵士たち。同作は、戦闘シーンが多い、いわゆる「戦争映画」とは一線を画すもの。静かにじわじわと見た人の心に訴えていく。
舞台あいさつの中で、サンタマリアさんは「雪山での撮影は、寒くて、非常に厳しいものだった。しかし、戦時中は、比べ物にならないほど過酷な状況だったと思うと、誰も不平を言うスタッフはいなかった」と撮影時のエピソードを語った。
「第一次世界大戦では、多くの人々、特に若い人々が理不尽な死を遂げた。この映画は、その1シーンを切り取ったもの。小さなエピソードだが、その小さな舞台の中に、一つの命の大切さが語られている」とサンタマリアさんは話す。
オルミ監督を非常に尊敬しているというサンタマリアさんは、それでも、彼との映画作りは緊張の連続だと話す。脚本は日に日に変わり、セリフもどんどん変わっていく。そのたびに、監督は納得がいくまで時間をかけて撮影を繰り返す。
「その日に、どんなシーンをどのように撮影するのか、現場にいくまで分からないのは、役者としては恐怖感がある」と話すが、それでも、形のないものを少しずつ形作り、最終的には素晴らしい作品に仕上がっているオルミ監督の力量に、いつも感動するのだという。
オルミ監督が撮影中に、役者たちにこんな言葉を掛けた。
「君たちが今、目と目を見ながら話しているこの現場で、次の瞬間には爆弾が落とされ、今、話しているその人か自分の命が亡くなってしまうかもしれないといった状況だったら、どんな風に感じるか。今は、そうした状況ではないということに感謝をしなければ」
このシンプルで、当たり前といえば当たり前の言葉が、役者たちを戦時下という異次元の世界へと誘い、一層士気が高まったという。
舞台あいさつ後、本紙の単独インタビューに答えたサンタマリアさん。日本食が好きで、イタリアでも時折、寿司などを食べるのだと話した。「今回の映画の見所は?」との質問に対し、「2人の若い兵士の死を通して、物語が展開していくところ」だと答えた。
また、強い意思を持って任務を遂行しようとする少佐役を演じる中で、命を失った若い兵士への思いと自分自身も死にたくないという思いの中で、心が二つに引き裂かれるような役どころに、「少々苦労した」と話した。
「人を赦すこと」について、サンタマリアさんは「人を赦すこととは、心を開くこと。また、自分自身の中にある化け物を破壊することではないか。それを破壊することによって、自分も癒やされ、相手も癒やされるのでは」と独特の表現で説明した。
最後に「この映画は、見ている人を異次元へと連れ出すことができる作品だと思う。戦場に身を置くことで、戦争がいかに無意味で残酷かが分かると思う。非常に優れた映画なので、多くの方々に見ていただきたい」と日本のファンに向けてメッセージを語った。
岩波ホールでの上映は1日4回。6月3日まで。詳しくはホームページ。