天下人
新年早々思い出すのは、約1年前に大病が発見されたことである。正直、年を越せるかどうか分からなかった。大腸を手術後、夜中に鎮痛剤を投与するまで、痛さでうなっていたとき、ベッドの上で必死で祈っていたとき、夢を見たのを思い出す。まともに寝ていないので、幻のような夢のような、神様の白い色の声であった。「わたしはあなたの病気を完治した」という声であった。
声に色がついているというのは想像し難いけれども、声と白い色が一体となって出てきたのを覚えている。最初、過去形で出てきたので、不信に思っていたけれども、神に時制はないと知り、納得した。今でもこの白い声を信じている。
11月末に肝臓を手術したことによって、目に見える患部は全くなくなった。年初の症状からすると、これは私には奇跡のように思えた。本当に奇しき神の御業という言葉通りに思えた。
病気とは全く話が違うが、戦国武将が天下人となるまでは、目先の敵と常に戦わねばならなかった。戦わねばこちらがやられるまでであった。目標は常に眼前にはっきりと現れてきた。
しかし天下人となると、権力が他と段違いになり、敵も眼前に現れるということは、そう度々ない。天下人故の孤独や疑心暗鬼になる心と戦わねばならなくなり、何事もはっきりと悟れるまで待つという訓練が必要であった。
病気(私の)でいえば、目に見える全ての患部は、天下人にとって、戦ってきた武将であり、今の状態は天下人になったといえる。
神様は私に肉体的、精神的な懲らしめを与えられた(「私は、・・・肉体に一つのとげを与えられました」[Ⅱコリント12:7])が、私の場合を見ると、これを取り去ってくれた。しかし、私の中ではその恐怖は一生去らないであろう。その意味で、肉体にとげがささったままであるといえる。
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米田武義(よねだ・たけよし)
1941年4月16日、大阪生まれ。大阪府立三国丘高等学校、国立静岡大学卒業。静岡県立清水東高校定時制教師を勤めた後、東北大学大学院、京都大学大学院(国土防災技術(株)国内留学生)で学ぶ。国土防災技術(株)を退職し、(株)米田製作所を継承する。2008年4月8日、天に召される。著書に『死に勝るいのちを得て―がん闘病817日の魂の記録―』(イーグレープ)。