米フェイスブックは今月9日、今年話題となったトピックスのランキングを「2015年のまとめ」と題して発表したが、米国大統領選挙、パリ同時多発テロ、シリアの内戦と難民危機に続く4位に選ばれたのは、「ネパール地震」だった。4月25日にネパールで発生した地震は、約9千人の死者を出し、世界遺産やネパール経済に大打撃を与えた。あれから半年以上が過ぎた今、被災地の状況はどのような様子なのか。時間の経過とともに、各メディアの報道も落ち着いてくると、その出来事を思い出すことも少なくなってくる。今一度、ネパール地震で被災した人々に思いを向けようと、チャリティーイベント「ネパール震災復興支援 『写真で見る あれから半年』」が9日、カトリック茅ヶ崎教会マリア会館(神奈川県茅ヶ崎市)で開催された。
このイベントは、ネパール復興に思いを寄せる市民グループによる共催で実現。1996年からネパールで職業訓練による自立支援と農村支援を行っている「ネパール教育支援の会」(NESA)、2009年に設立されたネパールの経済的自立の支援と国内のフェアトレード普及を目指す「ネパールとの架け橋 ねぱるぱ」など、湘南を中心に活動する団体が集まった。フリーマーケットやネパール製品の販売ブース、ネパールコーヒーやカレーを提供するカフェコーナーなどが設けられ、多くの来場者でにぎわった。ネパールを2回訪問し、子どもたちの前で手品を披露したという公園の手品師、一造さんによるショーも行われ、会場を盛り上げた。また、現地で撮影された写真が展示されており、午後には、9月から11月まで現地を訪問したNESA副会長の井上公雄さんによる報告会も行われた。
世界最貧国の一つであるネパールの1人当たりの国民所得は約3万円で、国民の約8割が農村で自給自足に近い生活をしている。NESAは、ネパールの首都カトマンズの南西部に位置するパタンという古都周辺の農村にある裁縫学校に無償で裁縫技術を提供し、子どもたちのための制服作りを行う「パタン工房」の支援を通して、女性の自立、ネパール人による各施設の独立運営を目指している。地震が発生した際には、すぐに現地のスタッフと協力して、テントやヘルメット、健康維持のための物資支援を行った。井上さんによると、現地の復興状況は「まだまだ1歩も2歩も進んでいない」という。地震によって崩壊した建築物のがれきは撤去され、有名なトレッキング・コースのエベレスト街道には、ヨーロッパからの観光客が多く戻ってきているのが見受けられたというが、市街の店のシャッターは下りたままで、人の姿はほとんど見当たらなかったという。
復興が進まない要因は、ネパール国内の圧倒的な燃料不足にある。ネパールとインドの国境が9月以降封鎖状態にあり、物流が停止している。特に、インドからの輸入のみが頼りとなっていたガスやガソリンがほとんど手に入らなくなり、工事車両を動かすことができないのだ。中国政府もインドに対抗して支援を準備しているが、実施できずにいる。各国からの支援物資も、役人を通すと消えているとのうわさがある。NESAが支援している農村の「パタン工房グーセル村分校」も、地震によって崩壊してしまったが、いまだに再建されていない。井上さんらは、すでに再建のために必要な経費を集めているが、今は現地の体制が整うのを待つのみだ。
盆地の市街に住んでいた比較的裕福な人々の生活が、地震発生以降大きく変わってしまった一方で、山地の農村に住む人々が受けたダメージはそれほど大きくなかった。地震以前から車も使わず、電気も限られた時間のみ、水道もない自給自足の生活をしていた人々は、物流が停止したところで受ける影響は少ない。井上さんも、「もとから物がないので、強い欲求がないんだよね」と笑いながら話す。「震災から復興するために何が必要かというのではなく、貧困そのものから脱出するための、震災以前からの自立支援を継続していくことが大事」なのだという。パタン工房で作った子ども服は、震災直後に母親たちに配られ、大変喜ばれたそうだ。日本からの支援を受けた人々が、次は自分たちで村の課題を解決する主体者になっていくことが、復興の近道なのかもしれない。
会場となったカトリック茅ヶ崎教会の信徒スタッフは、「教会は会場を貸しただけで、皆さんのネパールへの熱い思いには本当に頭が下がる思い」と話し、「教会は多くの人々に開かれていないといけない。こうしたイベントを通して、教会に足を踏み入れる機会ができれば」と笑顔を見せた。