過日、NHKの番組で認知症の人の対応に関して大変考えさせられる番組を見ました。ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。認知症の高齢者の暴言・暴力や徘徊など、いわゆる“周辺症状”の対応に悩む医療や介護の現場で、“ユマニチュード”と呼ばれるフランス生まれのケアを導入する動きが広がっているそうです。
「見つめる」「話し掛ける」「触れる」「立つ」を基本に、“病人”ではなく、あくまで“人間”として接することで認知症の人との間に信頼関係が生まれ、周辺症状が劇的に改善するというのです。「入浴のたびに大声を上げていた認知症の母から『ありがとう』と言われた」「寝たきりの祖父が歩くことができた」など、家族からは驚きの声も寄せられ、在宅ケアに生かそうという取り組みも始まっているようです。認知症の人がより良く生を全うする助けとなる“ユマニチュード”、その可能性をこの番組が伝えてくれました。
このような取り組みの主催者はフランス人のイブ・ジネストさん(ジネスト・マレスコット研究所所長)という方で、フランスで大きな成果を生み出しているそうです。その基本的な哲学は、認知症の人に対して「そこに人間がいる」「そこに存在している」という認識が土台となっています。
ユマニチュードというフランス語はおそらく英語のヒューマニティー(人間性)という言葉と関係があると思われます。認知症の人をまるでもはや人間ではないような、そこに存在していないような、単なる医学的対象物として、症状に対して現代医学の技術を投与するというやり方で扱っているために、認知症の人々がますます人間性を失っていくのだと教えます。そうではなくて、人間であって、存在しているのだから、きちんと顔を見て、温かく話し掛け、そっとやさしく体に触れて動きを軽く支え、立ち上がれるようにサポートすることが大切だと言うのです。
私どもには現在超高齢の親がいますので、このような基本的な考え方に深く共感いたしました。イエス・キリストのなさったことはまさにこのようなことではなかったかと思います。
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福江等(ふくえ・ひとし)
1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001年(フィリピン)アジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)など。