自衛隊の内部文書を在日ロシア大使館に勤務していた元駐在軍人外交官(=武官、50)に渡したとして、警視庁は自衛隊法違反(守秘義務違反の教唆など)容疑で、陸上自衛隊の東部方面総監だった泉一成(かずしげ)元陸将(64)と元武官、また現職の自衛官ら男女7人を4日にも書類送検する。NHKなどが伝えた。
NHKや朝日新聞によると、泉元陸将は13年5月、東京都内のホテルのロビーで自衛隊の訓練に関する内部文書「教範」(普通科運用)を、元武官に手渡した疑いが持たれている。教範は、自衛隊の訓練や教育に使われる約400ページにわたる冊子で、外部への持ち出しが禁止されている。
元武官は、ロシアの軍参謀本部情報総局(GRU)の出身とみられ、同年5月にすでに帰国している。警視庁は外務省を通じて出頭を要請したが、回答はなかったという。
2人の他に書類送検される5人は、泉元陸将のかつての部下で、陸上自衛隊のOBや現職自衛官ら男女5人。教範の入手に関わったとして、守秘義務違反の疑いが持たれている。時事通信によると、泉元陸将は部下に依頼し、教範計4冊を入手し、うち新品の1冊を元武官に渡したという。
泉元陸将は、「ロシアの情報機関の人間だとは知っていたが、研究熱心な姿勢を見せられて渡してしまった。かつての部下たちに迷惑をかけた」(朝日新聞)と話しており、他の5人も容疑を認めているという。
一方、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は6月、泉元陸将の事情聴取や自宅の家宅捜査が報じられた際、ニュースサイト「ザ・ページ」で、教範は自衛隊の内部文書ではあるが、自衛官なら誰でも入手可能で機密性は低いと指摘している。さらに、ネットオークションでも売買されているほどで、一般人でも購入可能だと述べている。実際、ヤフージャパンが運営するネットオークションサイト「ヤフオク!」でも多数の出品が確認できる。
元武官の出身とされるGRUについては、旧ソ連の諜報機関「国家保安委員会」(KGB)の流れをくむスパイ機関「対外情報局」(SVR)と並び、現在も海外に積極的にスパイを派遣して諜報活動を行なっていると説明。「仮に教範の譲渡くらいであれば犯罪にはならないが、今回の件がロシア諜報機関による本格的な自衛隊へのスパイ工作なのか、それとも合法的な表面的接触程度の段階であるのか、今後の動きを注目していきたい」などとつづっている。