「出家詐欺」を扱ったNHKの報道番組「クローズアップ現代」について審議していた放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(川端和治委員長)は6日、意見書を発表し、「重大な放送倫理違反があった」とする同委の判断を示した。一方、この報道をめぐり、総務相がNHKに行政指導を行ったことについては、放送法が保障する「自律」を侵害する行為だとして、「極めて遺憾である」と指摘した。
問題の番組をめぐっては、番組で「ブローカー」とされた人物が演技指導によるやらせ取材だったと告発。これを受けNHKは、外部委員も含む調査委員会を設け、「過剰な演出」などはあったが、「事実のねつ造につながるいわゆるやらせは行っていない」などとする報告書を公表していた。
同委は、問題となった昨年5月14日放送の「クローズアップ現代」と、その基になった同4月25日放送の「かんさい熱視線」(関西ローカル)の2つの番組について検証。NHKの関係者のみならず、番組内で紹介された「ブローカー」「多重債務者」に対しても聴き取り調査を行った。
その結果、2つの番組は「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。また、NHKによる調査は、「ブローカー」とされた人物の言い分への反論と、やらせと認定すべき事実があったかどうかに焦点が絞られ、「2つの番組の取材・制作過程についての放送倫理の観点からの検証が不十分であるとの印象をぬぐえなかった」とした。
一方、この28ページにわたる意見書の最後には、「おわりに」という項目があり、今年6月にあった自民党所属の国会議員らによるメディアに関する発言に触れ、「メディアをコントロールしようという意図を公然と述べる議員が多数いることも、放送が経済的圧力に容易に屈すると思われていることも衝撃であった」と付け加えた。
その上で高市早苗総務相が今年4月28日、NHKに対して「クローズアップ現代」について文書で厳重注意をしたこと、またその後、自民党情報通信戦略調査会がNHKの経営幹部を呼び、「クローズアップ現代」について非公開の場で説明させるという事態があったとも取り上げた。
それぞれ放送法を理由に行為の正当性を主張したが、同委は放送法が根拠になるものではないと指摘し、「自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのものとも言えよう」「今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」などとした。