2日目の25日は、日本聖公会、カトリック大阪大司教区、関西学院大学から出席した3氏によってシンポジウムが行われた。
日本におけるヘイトスピーチ
聖公会生野センター総主事の呉光現(オ・クァンヒョン)氏は、「キリスト者として生きるということ=ヘイトスピーチに向かって」と題して講演し、近年激化している人種差別デモやヘイトスピーチの現状について語った。呉氏は初め、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が、「朝鮮人は出てけ」「朝鮮人は殺せ」などとデモをしている動画(新大久保での反韓デモ・老人を殴り蹴る在特会)を紹介した。
こうしたヘイトスピーチを受けて、呉氏の知人には「自分が死ねと言われていると感じた」「吐く」「下痢が続く」と言う人もいるなど、深い傷を負っている人が多いと言い、在日3世の女性が書いた文章を紹介した。
三つ編みを引っ張られたり、ひどいときは友達にビンタされたり、在日韓国人ってだけで、めっちゃ怖い思いをしてきた。そんなときに回りにいた大人たちは誰も助けてくれへんかった。
在日がもっと抗議しろとかは聞き飽きましたし、その言葉はほんま傷つく。てかなんで私らが声あげなあかんねん、ヘイトスピーチは日本の問題やし日本人の問題やん?
日本から出てけとか言われるんすよ、出てけもなんも、わたしの帰るとこ、ここやし。はあ。疲れる。普通に悔しくて涙がでる。
ヘイトスピーチに無関心でひとごとな日本のひとたち、もっと関心持ってほしい。
呉氏によると、ヘイトスピーチという言葉は2013年に朝日新聞が使い、知られるようになったが、その根は05年に発売されたマンガ『嫌韓流』にまでさかのぼるという。『嫌韓流』は公式には90万部のベストセラーとなり、この本の中で初めて「在日特権」という言葉が使われたのが始まりだという。
06年末に在特会が結成され、09年には滞在資格をめぐって裁判を起こしたフィリピン人のカルデロンさん一家の追放デモが行われた。さらに同年12月に京都朝鮮第一初級学校が襲撃された。13年2月には、大阪の鶴橋駅で大規模なデモが行われ、参加者の女子中学生が「鶴橋大虐殺」発言をしたことで、日本国内外の世論が注目しだしたという。
その後、国連人権委員会で改善勧告が出されたが、日本政府は憲法21条の「表現の自由」を理由に全く改善の意向を示していないと呉氏は説明した。
呉氏は、ドイツでは人種差別的な行動は警察が実力行使して規制すると言い、しかし日本では、警察はただ付き添っているだけで、日本に来た外国人がデモの様子を見ると、「なぜ日本の警察はレイシスト(差別主義者)を守っているのか?」と疑問の声を上げるという。呉氏は、それはむしろ「寛容的共犯」ではないかと批判し、このような違いの根本に日本の歴史認識の課題があるのではないかと述べた。
教会はヘイトスピーチに向き合っているか?
呉氏はヘイトスピーチに対するカウンター(対抗)デモに参加しているが、ヘイトスピーチと闘う現場に教会の関係者がほとんど見られないのが残念だと言う。「教会関係者は正義や平和を語り、ヘイトを憂う発言はあっても、それをきちんと神学やキリスト教信仰の問題として取り扱った本は見たことがない。教会はヘイトスピーチにきちんと向き合っているのでしょうか?」とも語った。
しかし、呉氏の所属する日本聖公会でヘイトスピーチの動画を見せたところ、これは日本聖公会全体で取り扱うべきテーマだという議論が起こり、昨年5月には「ヘイトクライム(人種・民族憎悪犯罪)、ヘイトスピーチ(人種差別・排外表現)の根絶と真の民族・多文化強制社会の創造を求める日本聖公会の立場」が議案として満場一致で採択されたという。
このような議案が出ることで各教会に掲示が出され、現状を知らない教会員にも知ってもらうことにつながるとして、呉氏は「私にとってはとても力強い動きでした。このように教団で議案を出すことで、ヘイトスピーチの実際の現状を日本の教会もきちんとつかまえて、日本の社会の右傾化を見ていくべきではないでしょうか」と述べた。
そして、「預言者としての教会が今こそ問われている。ヘイトというものが反福音的であり、反聖書的であるという聖書理解、教会活動、神学的な営みが必要だと思います」と締めくくった。
アジア・アフリカ系の人々を差別の目で見る日本社会
次に、カトリック大阪大司教区社会活動センター(シナプス)の宮内陽子氏が、教会での難民移住者支援についての取り組みを報告し、「難民保護活動を行い、医療・生活保護の支援に付き添う中で、日本の社会がアジア・アフリカ系の人々を差別の目で見ていることを肌身で感じた」と述べた。
また、宮内氏が関わる全国キリスト教学校人権教育研究協議会では、プロテスタント、カトリックの教育関係者たちが集まりを開き、道徳の教科化や原発問題などについて、さまざまな決議声明を採択し、関係機関に送付している活動なども紹介した。
国境と教派を超え、平和と正義を求めるエキュメニカル運動
関西学院大学法学部教授で宣教師のクリスチャン・ヘアマンセン氏は、母国デンマークでは人口の8割がルーテル教会の信徒であり、母国ではエキュメニカルという視点はなかったと語った。その上で来日後、大阪の日雇い労働者の町、釜ヶ崎でさまざまなキリスト教の教派や団体が、生活保護や依存症、子どもたちの教育など同じ課題を共有し、支援活動を行っている姿を見て、初めてエキュメニカルな意味に気付いたと語った。
しかし、社会活動よりも教会での奉仕をするべきだという声も多く、さまざまな活動がなかなか教会や大学の神学部、研究者にまでつながらないのが課題ではないかと述べた。
ドイツでは2年に一度、「キルヘンターク」(教会の日)というイベントが行われ、プロテスタント、カトリック各派の関係者が集まり、さまざまな活動の報告や情報交換を行い、共に礼拝をささげているという。
ヘアマンセン氏が2011年に訪れたキルヘンタークのドレスデン大会には10万人が参加し、ドイツのアンゲラ・メルケル首相も訪れ、脱原発のメッセージを発した。キルヘンタークでは、それまで約40年間にわたり、脱原発運動を続けてきたという。ヘアマンセン氏は、共に力を合わせれば何かを達成できるという歴史的な会合となったと感じたと述べ、日本でもこのような活動ができないかと提案した。
ヘアマンセン氏によると、ドイツでもヘイトスピーチやレイシストの運動は激しいという。戦争の記憶を失えば、同じことを繰り返すのは、日本でもドイツでもデンマークでも同じであり、だからこそエキュメニカルな運動が必要だと述べ、それをどのように伝えるかを共に考えなければならないと語った。
今年12月には、パリで世界の気候変動問題について話し合う国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が行われる。世界的なエキュメニカル組織である世界教会協議会(WCC)では、長年にわたって気候と正義のための活動を行っており、国連の気候変動の議論に意見を出し、気候変動の犠牲となるアジア太平洋やアフリカの国々と力を合わせて活動しているという。ヘアマンセン氏は、日本ではまだそのような活動に参加し、声を上げるキリスト者が少ないとし、ぜひ声を上げてほしいと訴えた。
そして最後に、「教会は国境を超えている存在である。だからこそエキュメニカルな活動は必要とされ続けます」と語った。
■ エキュメニカル・ネットワーク第1回協議会:(1)(2)