11日に再稼働が予定されている鹿児島県薩摩川内市の九州電力川内原発。再稼働を前にした9日、「川内原発の安全を考える市民の会」代表で日本基督教団串木野教会(同いちき串木野市)の藤田房二牧師は、「神様が造られた自然を委ねられ、『治める』ために闘う」と語った。
この日、同教会で行われた主日礼拝で、藤田牧師は、「(串木野)教会が闘ってまいりました川内原発の再稼働も11日に決まり、またそれを変えていく行動が一昨日からなされております。どうぞその上に神様が良い解決を与えてくださいますように。また、再稼働が実施されても、諦めることなく、この運動を続けていくことができますように、私たちに知恵と力とを与えてください」と祈った。
そして藤田牧師は、創世記1章26〜31節を基に、「人間は神の似姿―地の全てを治めよ―」と題して説教を行った。その中で藤田牧師は、神の似姿として造られた人間の尊さがわれわれにあることを自覚し、魚や鳥、地に動く生き物を「治める」という、王のような特権を与えられつつも、皆の僕(しもべ)となって仕えるよう教えられたイエス・キリストを信じていくことを説いた。
「この頃、人の命が粗末にされ過ぎている」と、最近の殺人事件について話そうと聖書を見ていると、神の似姿に関する箇所に行き着いたと藤田牧師は言う。礼拝の中ではさらに、「今、世の中では、安倍政権になってから人の命を構わずに生きる政策が行われており、神様の似姿として造られた人間を滅ぼす原発、そして戦争、それを私たちが何とかして阻止することができますよう、守り導いてください。そのための知恵と力を私たちに与えてくださいますように」と祈った。
礼拝終了後、創世記1章の「治める」という箇所について、藤田牧師は、「調和を崩さないようにするのが、『治める』ということではないか。神様は天地を造られ、そして一つ一つを良しとされた。それを治めよと言われた。『支配』というと何でもかんでも自分勝手にしていいというように聞こえます。しかし、『治める』と言えば、やはり調和を保っていくこと。神様が造られた自然(の調和)を」と説明した。
藤田牧師は、原発がこうした調和を破壊するものだと言う。「私の中では神様から委ねられて治める。そのために闘っていく。そういう考えです」と語った。何十年も反原発運動をしている藤田牧師だが、東日本大震災による福島第一原発事故が発生する前は、「(反原発運動は)一部の人間によるものという見方が鹿児島の場合は根強かった」と話す。しかし、「3・11より前はやはり特殊な目で見られましたが、3・11後は多くの人々が脱原発に共感されるようになりました」と言う。
6月4日には、小泉純一郎元首相を招いての原発に関する講演会「日本の進むべき道」が鹿児島市内のホテルで行われ、キリスト教保育連盟鹿児島支部や日本基督教団鹿児島地区なども協賛し、串木野教会はその事務局を担った。講演会の初めには日本ナザレン教団鹿児島キリスト教会の久保木聡牧師によるオカリナの演奏も行われ、終わりには日本基督教団鹿児島地区の坂田茂委員長があいさつした。
「小泉さんは、『原発は安心安全・安い・クリーンエネルギー』という3つのウソにだまされたと言っていた」と、藤田牧師はその講演会を思い出して語った。
藤田牧師によると、川内原発の近くにある久見崎海岸ではかつて、ヒジキやワカメ、チリメンジャコが獲れていたが、川内原発に取水する配管に貝などが吸い付かないように流された塩素剤と、原発からの温排水でほぼ全滅してしまったという。小泉元首相も読んでいたという『九電と原発 ①温排水と海の環境破壊』(南方新聞社、2009年)にも言及し、「サメやカメ、イルカ、ダツの死骸が久見崎海岸に打ち上げられていた」と話す。しかし、ここ3年ほどは福島第一原発事故を受けて川内原発が止められていたため、チリメンジャコの水揚げが増えてきたという。
川内原発については、火山の噴火や、地震が起きた場合の危険性を指摘する見方もある。日本基督教団九州教区は原発に反対しており、同教区総会での藤田牧師の発案に基づき、昨年7月、鹿児島県知事に川内原発の再稼働をやめるよう要望書を提出した。
藤田牧師によると、串木野には1880年代末ごろにキリスト教が伝わり、1940年代に牧師が定住。米国の婦人宣教師アザリヤ・ピートと共に伝道し、幼稚園と保健所をはじめ、女子教育に力を入れたという。宣教師の感化を受けて、市の婦人会長もクリスチャンとなり、50数年前には市長も教育長もクリスチャンだったという。太平洋戦争で米軍の艦砲射撃によって焼け野原となったものの、関門トンネルや満州鉄道を設計した経験のある市長が串木野の基礎を築いたという。
藤田牧師は、1960年から串木野教会で55年間牧会し、同教会付属の友愛幼稚園の園長も務めている。園児は現在34人だという。
そこへ、川内原発の1号機が1980年代初めに運転を開始した。川内原発のすぐ隣の久見崎海岸から年4回風船を飛ばしているが、風船はそこから串木野に30分ほどで届くという。これは、放射性物質が川内原発から出た場合、風に乗って飛ばされてくる時間を測ったものだ。
原発に依存した地元経済。藤田牧師によると、川内駅の近くにあるホテルのほとんどは川内原発ができたのを受けてその労働者向けに立ち並ぶようになったという。藤田牧師はそのような状況の地元経済を報じた5日付の朝日新聞の記事を見て、「原発中毒」だと語った。
礼拝が終わった後の午後、藤田牧師は「川内原発再稼働阻止!ゲート前大行動」に参加した。久見崎海岸から川内原発正面ゲート前を目指して約2000人(主催者発表)もの人たちがデモをする前で、自らも「ストップ 再稼働!」と書かれたポスターを広げて立ち、再稼働反対を訴えた。
ゲート前からは、川内原発の近くの山地で、昨年10月に本格稼働を始めた柳山ウインドファーム風力発電所(薩摩川内市)の風車が勢い良く回っているのが見えた。神の造られた自然を「治める」、自然と調和したエネルギーの選択とは、一体何だろうか?