英BBCなどでも報じられ、今人気上昇中のロックバンド「牧師ROCKS」。その4人のメンバーのうち2人の牧師が、信徒のサポートドラマーを迎えて、6月26日金曜日の夜、東京・下北沢のライブバー「BREATH」で、「罪人限定ライブ」を行った。
ライブ前、牧師ROCKSのベーシスト兼ボーカルである関野和寛牧師(35、日本福音ルーテル教会東京教会)に、「牧師ROCKSは一言で言うと型破り?」と尋ねると、「そうですよ、そうとしか言いようがないでしょう」と関野牧師。普段の教会での日曜礼拝とのギャップを見てほしいと語った。
午後7時の開演前には30人近くが集まり、中には教会関係者や外国人客の姿もあった。7時半過ぎ。それまで歌や腹話術の前座で観客を楽しませていた司会者が、「罪人の皆さん、ご起立ください」とアナウンスすると、関野牧師とギタリスト兼ボーカルの笠原光見(こうけん)牧師(39、日本ルーテル教団浦和ルーテル教会)、そしてサポートドラマーのHINATAさん(18)が、静かな合唱曲「キリエ、エレイソン」がかかる中で、観客席の後ろから、ろうそくとイエスのイコン、そして十字架を持って入場してきた。
この日は、牧師ROCKSの4人のフルメンバーのうち2人のメンバー+サポートドラムのHINATAさん。ドラム歴12年という彼は、小学生の時に関野牧師から洗礼を受けた東京教会の会員で、音楽大学でドラムを学んでいるという。プロ志向のドラマーだ。
その後座った観客に、「ごめん、罪人の皆さん、もう一度ご起立ください」と言い、関野牧師が笑いを引き起こすと、「OK!罪深い夜にするぞ!」と笠原牧師が叫んだ。笠原牧師が歪みを効かせて縦横無尽に操るエレキギターに、関野牧師の巧みなベースによる重低音、そしてHINATAさんのドラムのビートがなすエネルギーが炸裂。スピード感あふれるサウンドと激しいリズム、そしてパワーあふれる大音量の歌声で、観客をグイグイと引っ張っていく。いよいよ「罪人限定ライブ」の始まりだ。
最初の曲はハードロックの「トリニティ」(三位一体)。歌詞のサビの部分には「アーメン、アーメン、アーメン」。次の2曲も、「キリエ、エレイソン、憐(あわ)れんでください・・・」「命ある限り・・・」と信仰の歌詞が聞こえた。
3曲が終わると、「今日は珍しく聖書の話をしてみようかな」と関野牧師。会場のスピーカーから「Laudate Dominum」というテゼ共同体の静かな合唱曲がかかると、関野牧師はグラスを片手に観客に向かって「皆さんの罪深さに乾杯!」。すると、司会者が懺悔(ざんげ)の部屋を模して、「sinner 罪人 ざんげ」と書かれた段ボール紙を持ち、笠原牧師に「さっきやった前座が全然ウケませんでした」と“罪”を告白した。
関野牧師はスライドを使いながら、イスラエルのダビデ王が部下を戦争の最前線に送って殺しその妻を奪ったこと、そのダビデ王の血筋からイエス・キリストが生まれたこと、ダビデ王の息子であるソロモン王が妾(めかけ=側室)を300人も抱えていたことなどを紹介。笠原牧師がやんちゃだった20歳頃の写真も映し出され、関野牧師は「皆さんもやんちゃしてたと思うんですけど、これがこうなります」と、笠原牧師の方を向きながら語ると、会場は笑い声に包まれた。そして、「誰の罪でも赦されるんです」と彼は付け加えた。
HINATAさんが小学校5年生の時の写真も映し出された。彼がその後、髪を金髪に染めてドラマーになりたいと言ったことを紹介し、再び「皆さん、宗教に入ると、これがこうなれます」と関野牧師。会場からはどっと笑いが起こった。
関野牧師は約7年前のその写真の中で、HINATAさんの隣で「花柄のマリメッコ(フィンランドのライフスタイル・ブランド)みたいなのを着ている(HINATAさんの)お母さん」も紹介。「今日(そのお母さんが会場に)来てるんですけど、10歳若返ってます。マリメッコの女性が女子大生みたいになれます。どうですか? 皆さん、キリスト教に興味が出てきましたかねえ?」
”説教”が一通り終わると、今度はキリストの救いをメンバー全員で奏でだす。「僕らはこんなキリストってマジ、ロックだなあって思って生きてます。心がきれいになったからとか、自分のダメなところが直ったからじゃなくて、『こんなクズみてえな俺を助けてくれ』って言ったとき、『おまえは俺と一緒に天国にいるよ』って言ってくれるキリストは本当にロックだと思います」と、関野牧師は熱い思いを語った。
そして再び罪の”告白タイム”。笠原牧師宛に「迷える罪人たち」から届けられたざんげの手紙の数々を、関野牧師が読み上げた。「20年間もうそをついてごめんなさい」「ダメ男と浮気してしまっても、今も吹っ切れてない」「私は牧師ROCKSのメンバー(既婚者もいる)に恋をしています」・・・。
普段はビートルズ・バーであるBREATHで、次の曲は名曲「Let It Be」。「御心通りになりますように」という聖母マリアがキリストを身ごもったときの言葉だと関野牧師は説明しつつも、自らの日本語訳を説明。「Let it Be は、御心通りになりますようにではなくて、もうどうにでもなれ!じゃないかな?」と訳して紹介。場内は爆笑に包まれた。
続いて、笠原牧師が作った「夜明けの風」という曲。彼が弾くストラトキャスターのややドライなサウンドにベースとドラムのバッキングで「主の愛・・・夜明けの風に打たれよう」と歌った。
最後の曲は、昨年から発売中のCD『牧師ROCKS』の3曲目「牧師ROCKSのテーマ」。観客は関野牧師の呼び掛けに応じ総立ち。サビで「牧師 rock’n roll・・・」と繰り返し歌い、ギンギンのハードロックでステージを大いに盛り上げた。
曲の後、関野牧師が観客に一言。「皆さん、お酒飲んで、牧師さんに罪の一つでも告白して、帰って家族に優しくして、明日も飲んだくれて、日曜日は教会へ来い」。そして、アンコールの手拍子。歌ったのは1曲目と同じ「トリニティ」で、観客も「アーメン、アーメン、アーメン」と歌い、中には楽しそうに踊る人もいた。曲が終わると、関野牧師が「何回も言わせるな。おまえら赦されて愛されてる。二杯ぐらい飲んで帰れ」と最後の捨てゼリフ。この日のライブが終わった。
「楽しかったです。宗教は違っても」。牧師ROCKSのライブに初めて来たという仏教徒の女性(47)はライブ終了後に笑顔で語った。
7月22日(水)には、午後7時から東京・四谷にある「坊主バー」で坊主バンドと共に25人限定の「坊主バー焼き討ちライブ」を予定しており、仏教の僧侶である藤岡善信さんと関野牧師がトーク&ミニライブをやるという。詳しくは牧師ROCKSのオフィシャルブログで。
さらに関野牧師は、宗教改革500周年の2017年に向けて海外でもライブをやりたいと言う。ワールドツアーを目指す彼らの野望は大きい。