日本のR&B界に、弱冠20代にして「トップギタリスト」と呼ばれるアーティストがいる。20歳で渡米し、グラミー賞ノミネート・ギタリストのドク・パウエルから指導を受け、現在、May J.や三浦大知、MIHIRO~マイロ~など国内でもトップチャートに名を連ねるアーティストたちのバンドマスターとして音を奏でている、Sho Kamijo(本名:上條頌)さん(29)だ。日本人離れしたセンスに、いかにもアーティスト然としたその容姿だが、話を聞けば聞くほど、彼の活躍からは神の“御業”というものの妙を感じずにはいられなくなる。
「特に音楽で飯を食おうとは思っていませんでした」と笑いながら話す彼が、ギターを始めたのは中学生の頃。祖父の代から続くクリスチャンの家庭で育ち、幼い頃から教会に通った。当時通っていた新城教会(愛知県新城市)では、中高生対象の礼拝が定期的に行われており、毎回120人ほどの少年が集まっていた。その多くが、やんちゃな中高生たち。「非行防止の目的でバンドを組むことになって、ポジションが空いていたギターを弾いたのがきっかけ」と振り返る。
渡米することを目標に、学生時代からコツコツとお金を稼いでいた上條少年。米国で活躍するサックス奏者、ロン・ブラウンが来日し、教会を訪れた際、唐突にロン・ブラウンに付いて行きたいと申し出た。「当然のごとく、渡米することだけしか頭にない僕の考えは、あっさり見抜かれていました」。しかし、その次の日に驚くべきことが起きた。
上條少年の話を断って米国へ帰ったロン・ブラウンの元に電話がかかってきた。電話の主は、スティービー・ワンダーやカーク・フランクリンなどのバンドでギタリストを務め、当時既にカリスマ・ギタリストと呼ばれていたドク・パウエル。彼が何と「今までやってこなかったが、弟子を取りたい。誰かいないかい?」と連絡してきたのだ。ブラウンは「日本人でよければ」と上條少年を紹介。20歳で夢の渡米が実現することになった。
「約2年ほど、ロサンゼルスにいましたが、その間も教会でギターを弾いていました。それが現在の音楽の基礎になっています」と Sho さん。帰国後も、日本生まれのクリスチャン・プレイズ・ミュージック「Zawameki」のコンサートに参加。さらに、ギタリストとして、さまざまなアーティストのバックバンドに加わり、キャリアを積んだ。
そんな彼がいつも胆に銘じているのが、祖父で牧師である滝元明氏の言葉。「祖父は顔を合わせるたび、『決して高ぶっちゃいかん』と必ず言ってくれます。今、影響力の大きな仕事を任されているのでよくよく気を付けています」と言う。
聖書にも、「高ぶる目とおごる心とは、悪しき人のともしびであって、罪である」(箴言 21:4)と書かれている。「芸能界は華やかな世界だけど、その分誘惑も多い。だから、古いと思えるような聖書の言葉にも、何度も守られてきました」。仕事においても、最初にお金ありきではなく、心や信頼関係を重視して活動しているという。
「日本のポップスは、その音楽と自分を重ね合わせるために聞くことが多い。だから暗い曲が多いけど、そういう点で、喜びや感謝など、自分を表現するアメリカとは違うし、僕のスタイルはアメリカより」と語る Sho さん。これまでの仕事を振り返っても、高いギターの技術を求められる仕事より、彼の音楽性や明るい世界観を求めてくるクライアントと深い関係を結ぶことが多いという。
ツアーをしても、必ずバンドの中にクリスチャンのメンバーを入れ、ミーティングで自らの証しを語る時間も作っている。「一人であれば、誘惑に負けてしまったとき、そこには誰も力になってくれる人がいない。でも、仲間がいれば互いに励まし合い、助け合える。そして、クリスチャンかどうかを超えて信頼関係を築けます」
今年2月には、国内外の豪華ゲストアーティストを迎え、自身初となるオリジナルアルバム『Let's Go Together』をリリースした。これからの活躍にますます注目が集まる Sho さんは、「教会の賛美も聞き手のための奉仕。自分が満たされたりするためだけのワーシップチームではいけない」と話す。「教会で音楽を志す人たちに技術と活力を与えていきたい」と、今後のビジョンを語ってくれた。
■ Sho Kamijo ファーストアルバム『Let’s Go Together』