17日夜に起きた米サウスカロライナ州の教会での銃乱射事件で、聖書の勉強会中に射殺された9人の遺族は、19日に開かれたディラン・ルーフ容疑者(21)の保釈審問で、痛みの中にありながら容疑者を赦(ゆる)し、「悔い改める」よう強く勧めた。ジェームズ・ゴスネル判事は100万ドル(約1億2300万円)の保釈金を設定したが、19日午後遅くの時点ではまだ拘束中だ。
同州チャールストン市にある約200年の歴史がある、エマニュエル・アフリカン・メソジスト監督(AME)教会で発生したこの事件で、犠牲者の遺族は、ルーフ容疑者の保釈審問で、涙に暮れ、むせび泣きながらその痛みと心の苦しみを明かした。ケンタッキー州レキシントン在住のルーフ容疑者は囚人服に身を包み、手錠をかけられた状態でビデオ出廷し、これを落ち着いた様子で無表情で聞いていた。
犠牲者の一人、エセル・ランスさん(70)の娘は、ルーフ容疑者に「あなたを赦します」と語った。「あなたは私から本当に大切な存在を奪いました。2度と母と話すことはないのです。2度と母を抱きしめることはできないのです。それでもあなたを赦します」
ルーフ容疑者は、各々の犠牲者に対する殺人罪9件と、警察がヘイトクライムとしたこの大量殺人事件に関する銃火器所持の罪で告発された。州法では、ルーフ容疑者は殺人罪での保釈は認められないが、ゴスネル判事は銃火器所持の罪について100万ドルの保釈金を設定した。
マイラ・トンプソンさん(59)も、17日の夜に殺害されたうちの一人だ。悲しみに暮れる遺族の一人は、ルーフ容疑者に「悔い改めて」、キリストに人生をささげるよう強く勧めた。
「私はあなたを赦します、私の家族もあなたを赦します」と、アンソニー・トンプソンさんはルーフ容疑者に語り掛けた。「しかし、この機会を悔い改めに使ってください。悔い改めてください。告白してください。あなたの人生を、最も気に掛けてくださる方、キリストにささげてください。そうすればキリストはあなたに起こったことが何であれ、あなたとあなたの歩みを変えてくださいますし、あなたはもうそれでよいのです。それをしてください。そうすれば、今この時よりもあなたは良くなりますから」
9人の殺害を自供したルーフ容疑者は捜査当局に対し、想像もつかないことを起こすことで、「人種戦争を始めたかった」と述べたと伝えられている。また、その場にいた罪のない13人に対して銃を発砲する前、1時間ほど共に聖書の勉強会に参加していたとされている。
さらに報道によると、「皆がとても歓迎してくれたので、ほとんど思いとどまった」が、後に心変わりしたとも供述している。
殺害された同教会のクレメンタ・ピンクニー牧師は、民主党の州上院議員でもあった。ピンクニー牧師のいとこであるシルビア・ジョンソンさんは、生存者の一人と話したとし、次のように語っている。
「生存者の人は、ルーフ容疑者が5回弾丸を詰め替え、ただ『俺はこれをしなければならない。お前らは俺らの女たちを強姦(ごうかん)し、この国を乗っ取ろうとしている。だから、お前らは消え失せなければならない』と言ったと話していました」
保釈審問の開会宣言で、ゴスネル判事はこの事件の双方に犠牲者がいると語った。
「9人の犠牲者がいますが、もう片側にも犠牲者がいます」とゴスネル判事は言い、「この若者の家族の中にも被害者はいるのです。家族が経験している一連の出来事の上に、さらに非難を浴びせるようなことがあってはなりません」と語った。
他の犠牲者は、シャロンダ・コールマン・シングルトン牧師(45)、スージー・ジャクソンさん(87)、シンシア・ハードさん(54)、デペイネ・ミドルトン・ドクター牧師(49)、タイワンザ・サンダースさん(26)、そしてダニエル・L・シモンズ牧師(74)だ。
バラク・オバマ米大統領は18日、この銃乱射事件を非難し、「心を痛める事件」と語った。「この種の死は皆、悲劇です」とオバマ大統領は記者会見で述べ、「特に心痛むのは、この死が、私たちが慰めを求め、平安を求める場所、礼拝を行う場所で起こってしまったということです」と語った。
チャールストン市のジョセフ・P・ライリー・ジュニア市長は19日、犠牲者の葬儀や遺族のカウンセリングなどの必要のため、「マザー・エマニュエル・ホープ」基金を設立。基金には既に数千ドルもの寄付が集まっている。
事件があったエマニュエルAME教会は、1816年に元奴隷の黒人らによって建てられた米南部で最も古い教会の一つ。同教会が所属するAME教会は18日、事件についての公式見解を発表し、悲しみを表す一方、事件は米国に依然として残っている人種差別の問題であるとし、直視しこれに取り組む必要があると訴えた。