米サウスカロライナ州チャールストン市にある歴史的な黒人教会で行われていた聖書研究会の間に、白人の男が発砲し、同教会の牧師を含む9人を殺害した。地元警察はこの事件を「憎悪犯罪」(ヘイトクライム)であるとし、同市の市長は「純然たる憎悪」だとして非難した。米キリスト教ニュースサイト「クリスチャンポスト」が18日に報じた。
事件は、現地時間17日午後9時ごろ(日本時間18日午前11時ごろ)、同市にあるエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会で発生した。同教会は、1816年に設立された、米南部で最も歴史のある黒人教会の一つ。8人が事件現場で死亡し、他に2人が近くの病院へ運ばれたが、そのうち1人が途中で死亡した。
犠牲者の一人である同教会のクレメンタ・ピンクニー牧師は、サウスカロライナ州上院の民主党議員でもあった。42歳のピンクニー牧師には、残された妻と2人の子どもがいる。
「彼は誰に対しても悪口を言うことなどなかった」と、同州下院の野党指導者であるトッド・ルーサーフォード氏は記者団に語った。
ピンクニー牧師のいとこの一人である同州上院議員のケント・ウィリアムス氏は、ピンクニー牧師が「神を畏(おそ)れ、家族を大切にする人でした」と語った。「彼は人格者でした」とウィリアムス氏は言い、米CNNに対し、「彼は貧しい人たちを助けることに情熱を抱いていました。全人類の生活の質を改善するのを助けるために」「けれども、特に私たちの中で最も小さき人たち(の生活の質)を」と語った。
18日午前の記者会見で、チャールストン市のジョセフ・P・ライリー市長は、この凶悪犯罪を「計り知れない」悲劇としか説明できないと語った。
「誰かが教会の中へ歩いて入っていき、祈っている人たちを銃撃できた唯一の理由は、憎悪によるものだ」と、ライリー市長は語った。「それは想像し得る中で最も卑怯な行為であり、われわれはその者を裁きにかける。彼は憎悪に満ちた者だ」と言い、「恐ろしい、憎悪に満ちた者を教会の中に入れさせて、そこで互いに祈り、礼拝をしている人たちを殺させることは、理解しがたいことであり、釈明されるものではない」と付け加えた。
地元の教会指導者たちも記者会見を開き、チャールストン郡宣教奉仕会議のメンバーであるトリー・フィールズ氏は、この教会が標的にされたのは明らかに人種がその理由だと述べた。
「それが人種なのは明らかだ」とフィールズ氏。「アフリカ系米国人の教会の中へ白人の男が入っていく。それは選択だ。彼はその教会へ入って行って、それらの人たちに危害を加えることを選んだ。それは選択なのだ」と語った。
警察は18日、21歳のディラン・ルーフ容疑者を殺人容疑で逮捕した。ライリー市長は、ルーフ容疑者がどこで逮捕されたのか明らかにしなかったが、報道によれば、約320キロ離れたノースカロライナ州のシェルビーという町で拘束されたという。
情報筋によると、ルーフ容疑者は、同教会の地下で発砲する前、同教会で行われていた祈祷会に1時間出席し、聖書研究会のために集まっていた13人のうち9人を殺害した。
ピンクニー牧師のいとこであるシルビア・ジョンソンさんは、この銃撃事件の生存者たちと話をし、銃撃犯は祈祷会の間ずっとピンクニー牧師の隣に座っていた、と生存者の一人が語ったと述べた。銃撃犯は襲撃の間に弾丸を5回詰め替え、その一方でジョンソンさんの息子が銃撃犯に話し掛てより多くの人々を殺させないようにしたと、もう一人の生存者はジョンソンさんに語ったという。
米NBCニュースによると、この生存者は、銃撃犯が教会員を殺そうと決心していたのは、黒人が米国を「乗っ取ろうとしていて」、「消え失なければならない」と信じていたからではないかと述べた。
ジョンソンさんは生存者の話として、銃撃犯が「お前らは俺らの女たちを強姦(ごうかん)し、この国を乗っ取ろうとしている」「だから、お前らは消え失なければならない」と叫んでいたと話した。
同教会は、元奴隷たちによって1816年に建てられ、以来、チャールストン市の地域社会の一部として根付いてきた。
この事件を受けて、バラク・オバマ米大統領は18日、同教会が200年余りの歴史の中で人種差別や憎悪による迫害にどのように対処してきたか、その概略を述べるとともに、この事件をきっかけに銃規制の強化を主張した。
一方、世界メソジスト教会協議会(WMC)は18日、憎悪によって動機付けられたこの犯罪で重大な被害を受けた犠牲者の遺族と、同教会の会員のための祈りと支援を強く求めるとともに、WMCのギラン・キングストン副議長による下記の声明を公式サイトに掲載した。
他の全ての良心的な人々と共に、私たちは、サウスカロライナ州チャールストンにあるエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会で9人が亡くなった恐ろしい暴力行為について耳にし、慄然(りつぜん)とするとともに深く悲しんでいます。私たちは、こんなにも悲劇的に先立たれた人たちや、負傷した人たち、そしてそのご家族のために心から祈ります。この状況の中で助けと癒やしをもたらそうとしている人たちの上に、神の御力と恵みとがありますように。2014年世界メソジスト平和賞の授与を前にして起きたことで、私たちは平和に向けた働きが常に優先課題でなければならないことを思い起こしています。
WMC社会・国際問題委員会のムボンゲニ・マガグラ委員長もまた、「私たちはこのような人道に反する憎悪犯罪(ヘイトクライム)を強く非難します。私たちは、『目には目を』が私たちを皆、盲目にすることを覚えつつ、平和を求め続けます」と語った。
また、世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事も18日、「チャールストンのエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会で昨夜起きたこの出来事を、私は恐怖と共にたどっていました」と述べ、「牧師と教会員が暴力行為の標的にされ、それは祈祷と聖書研究で集まっていた間に計画され、憎悪によって動機付けられたものであるように見えます」と付け加えた。
WCCは同日、公式サイトに「WCCはチャールストンでの大量殺人を非難する」という記事を掲載し、事件の被害者の家族と教会および地域社会に哀悼の意をささげると述べた。そしてトヴェイト総幹事は、「傷つき心を乱された人たちが癒やされるように、そしてアフリカン・メソジスト監督教会の兄弟姉妹に連帯し寄り添うために、祈りをささげます」と述べた。
米国キリスト教会協議会(NCCC−USA)も18日、「NCCC−USAは、サウスカロライナ州チャールストンのエマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会と共に悲しむ」と題する記事を公式サイトに掲載した。