全国の神社や仏閣などに油のような液体がまかれていた事件で、キリスト教系団体の設立者である男性に、建造物損壊容疑で逮捕状が出ている。医師でもあるこの男性は、米ニューヨーク在住で現在も米国にいるため、逮捕状を取った千葉県警は事情を聴くため、男性の帰国を待っている状態だ。このことを受け、今回の事件に男性が関与していると疑い、独自の調査による情報を警察に提供した、宗教トラブル相談センターの村上密(ひそか)氏(アッセンブリー京都教会牧師)らが5日、お茶の水クリスチャン・センター(東京都千代田区)で共同記者会見を開き、事件とその背景について説明した。
記者会見に臨んだのは、異端・カルトに入信した人々のカウンセリング・救出を行ってきた村上氏と、かつて男性が設立した団体の事務局で仕事をしていたことがあるという、キリスト教カルト化被害者支援ネットワーク事務局の櫻井寿子氏、日本キリスト教異端相談所所長の張清益(チャン・チョンイク)氏、クリスチャン新聞編集顧問の根田祥一氏。
今年4月に、奈良県の仏閣で油のような液体の痕が発見され、それに続いて似たような被害が全国各地で報告されるようになった。その報道を耳にした村上氏は、「神社、仏閣が被害に遭っているのに、なぜキリスト教関連施設は被害に遭っていないのか」と疑問に思い、「極端なキリスト教グループ」が関係しているのではないかと推測したという。キリスト教が日本に伝来して以来、このような事件はなかったことを踏まえ、ここ数年で日本に入ってきた団体、もしくは活動を始めた団体の可能性が高いという考えに至った村上氏は、男性が設立した団体を思い当たったという。
この団体に当たりを付けた上で、確認作業を進めた村上氏は、「油をまいているらしい」という関係者の話を耳にし、その証拠として、男性本人が「油をまいた」と証言する映像を入手。油をまいたところを撮影し、そのことについて自ら語っている映像などを、警察に資料として提出したという。5月17日、村上氏の地元である京都府警下京署、そして男性が油をまいたと講演した会場のある福岡県警博多署に情報を提供。被害に遭った仏閣の一つである東寺(京都市南区)を管轄している京都府警南署から連絡が入り、21日に相当な量の資料を警察に受け渡したという。
男性は、韓国で設立されたある宣教団体の理事という肩書で、2012年に日本のキリスト教界に入り、13年5月に団体を設立してからは、団体のディレクターとして各地の教会で講演を行ってきた。この団体は、神から召しを受けた一般信徒が、職場などで福音を語り、ビジネスから各自治体、そして日本全国へと福音を広げる働きを励ますミニストリーだという。会員制などは取っていないため、幹部である男性とマネージャー、サブリーナと呼ばれる預言者以外は、どれくらいの人が参加していたかは正確には把握できていない。
しかし、講演会などの映像を見ると、参加者の反応が非常に良いように思える、と村上氏は話す。現段階では、この団体や男性と関わったことによる経済的・身体的な被害は報告されていないというが、根田氏によると設立して1年が経過した頃から、「おかしいのではないか」「発言が過激で危険だ」という問い合わせが入るようになったという。
張氏は、男性の行動を理解する上で、以前関わりを持っていた韓国の宣教団体についての理解が必要だとして、韓国の多くの教会がこの宣教団体を危険視していると説明。「過激な宣教は、この団体の典型的なやり方」などと話した。
団体設立時から1年ほど男性と関わりを持ち、事務局の働きをしていたという櫻井氏は、男性が小さな入れ物に入れた油を持っていたのを見たことがあると話した。しかし、それは癒やしの祈りのために用いるアノイティングオイル(聖油)と呼ばれるもので、それ以外の目的で使用しているのは見たことがないという。村上氏によれば、実際に男性が油をまいているところを目撃したという証言は、他の関係者からも得られていないという。
男性は講演の中で、油をまく理由を、「聖霊に示されて行った場所の悪霊を追い出すことで、天使の守りが与えられる。勝ち取る場所が増えれば、日本にリバイバルが起きる」と語っている。社会問題化したカルトに詳しい村上氏は、カルトの特徴として「エスカレートしていく」点を指摘し、「(男性の)話に発展性があり、被害が増える可能性が高かった」ことから、早い段階での警察への情報提供を行ったと説明した。