インド与党の支持母体であるヒンズー教至上主義団体「民族義勇団」(RSS)の指導者であるモハン・バグワット氏が2月23日、マザー・テレサの奉仕活動はキリスト教への改宗を目的としたものであると発言したことで、同国では全国で抗議の声が上がっている。
バグワット氏は、「マザー・テレサの奉仕活動は良いものであっただろう。しかしそれには奉仕を受けていたその人を改宗させるという、一つの目的があった」と、インド北西部のラジャスターン州で「アプナ・グハール」というNGOが主催した行事で発言した。
「問題は改宗に関することではなく、もしこれ(改宗)が奉仕の名において行われていたのであれば、その奉仕の価値が下がるということだ」とバグワット氏は語った。
インドのナレンドラ・モディ首相は同17日、全ての宗教団体に「自制と互いの尊敬をもって行動するよう」訴えていた。
この発言は、インド国民会議(INC)やインド共産党(CPI)、アーム・アードミ党などの野党から鋭い批判を招いたが、インド西部の極右地域政党「シブ・セーナー」はこれを称賛。与党のインド人民党(BJP)の指導者であるメーナクシ・レクヒ氏もバグワット氏を擁護する発言を行った。
インド・クリスチャントゥデイは25日付の記事で、「RSSのバグワットはマザー・テレサについて『よく知らない』と神の愛の宣教者会」という見出しの記事を掲載した。
「モハン・バグワットは(マザー・テレサについて)よく知らない。彼はここに来て、この修道会を訪問し、私たちの活動についてもっと知るべきだ」と、マザー・テレサが創立した修道会「神の愛の宣教者会」の代弁者であるスニタ・クマールさんはその記事の中で述べた。
「この宣教者会は貧しい人たちのために、その宗教的背景にかかわらず活動している。この国やとりわけ(マザー・テレサが奉仕活動を行ったインドの西ベンガル州の州都)コルカタの人たちは、貧しい人たちのためのマザーの憐れみと愛を覚えている。コルカタや世界中の人たちは所属している宗教を超えてマザーを尊敬している」と、クマールさんは付け加えた。
コルカタのトマス・デソウザ大司教も、25日付のインド英字紙「バンガード」でバグワット氏の主張を非難し、マザー・テレサは「貧しい人たちや病気の人たち、死んでいく人たちに尊厳を与えたかったのだ」と述べた上で、バグワット氏の主張は「全くのうそだ」と語った。
また、インド・カトリック司教協議会(CBCI)も24日、バグワット氏の発言を非難する声明を公式ホームページに掲載した。
インドの主要英字紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」は3月2日、「バグワットのマザー・テレサ発言で心を痛めるキリスト教徒、しかし首相による(信教の自由の)保障は良し」という見出しで、デリーのアンニル・コウト大司教のインタビュー記事を掲載した。
東欧アルバニア出身のマザー・テレサは、1950年にローマ教皇庁から認可を受け、コルカタに「神の愛の宣教者会」を設立。79年にノーベル平和賞を受賞し、翌年にはインドで最高の文民賞であるバーラット・ラトナ賞を受賞した。97年に帰天したが、2003年に当時の教皇ヨハネ・パウロ2世によって列福された。