経営における重要なキーワードとして注目される「サーバント・リーダーシップ」。このサーバント・リーダーシップに関する研究会が23日、レアリゼアカデミー(東京都港区)で開催された。
サーバント・リーダーシップとは、ロバート・K・グリーンリーフ氏(1990年没)が提唱した、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」とするリーダーシップ哲学。日本では、クリスチャンであった資生堂の元社長池田守男氏(2013年没)が、社長在任中にこの概念を経営の中心においていたことが広く知られている。
研究会を主催するのは、NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会。この日は、同協会理事の広崎仁一(ひとかず)氏が、五千円札の肖像にもなった新渡戸稲造を中心に、新渡戸に影響を与えたリーダーたち、また新渡戸から影響を受けたリーダーたちを取り上げた。
広崎氏が担当するこの研究会は、2012年から始まり今回で7回目。参加者は過去の研究会にも参加した経験のある人がほとんどで、IT関係や医療関係などさまざまの分野のビジネスパーソンたちが参加した。研究会は、2つのグループに分かれ、広崎氏の話の合間合間に議論を交わしながら進められた。
新渡戸に影響を与えた人物では、札幌農学校初代教頭のウィリアム・クラークが挙げられる。学生たちと雪山登山へ行った際、クラーク博士は、コケを採取するのに四つんばいになった自身の背中に、学生を長靴のまま上がらせて取らせたという。「日本ではあり得ない寛容な行動だ」「日本とは違う倫理観を当時の学生たちはクラーク博士から直接学んだはず」と、参加者たちも感心した様子だった。
札幌農学校在学中、新渡戸は母の死などさまざまな悩みを経て、英国の思想家トーマス・カーライルの著書『衣服哲学』に出会うことになる。それが新渡戸の生涯に決定的な影響を与えることになったという。さらに、同書の中で紹介されているクエーカーの創始者ジョージ・フォックスの、人間誰しもが宿している「内なる光」という考え方が、新渡戸の心を捉え感動を与えた。
一方、親友であった内村鑑三と新渡戸の考え方の違いについても言及。新渡戸の教え子であり、後に東大総長となった矢内原忠雄は、「私は内村先生から『神』を学び、新渡戸先生から『人』を学んだ」と言ったという。
研究会では、新渡戸に影響を与えた人々・受けた人々の姿を通して、その影響力・感化力はどこから生まれるのか、他者に対して喜んで犠牲を払える源泉は一体何なのか、について話し合いが持たれた。そしてそれは、「犠牲を伴った『愛』に触れ、『真実の愛』を体験すること」から来るのではないかという推察に及んだ。
「サーバント・リーダーを分かりやすく言ってしまえば、サーバント・ハートを持った変革リーダー」だと言う広崎氏。「新渡戸を研究していて分かったのは、人と深いレベルの共感ができる人。悲しみを共に負い、泣く者と共に泣くことができる人だった」と話した。
この日の研究会は、クラーク博士から池田守男氏まで新渡戸を取り巻く10人を取り上げ、話が広範囲に及んだが、最終的には全てがつながり、サーバント・リーダーとは何か、また影響力の源泉は何かについて理解を深めた。講師の話を聞くだけの受身型の会ではなく、自らも考え、発言する参加型の研究会だ。過去には、賀川豊彦やネルソン・マンデラ、杉原千畝といった人物を取り上げており、次回は8月3日(月)に開催される予定。