著者いわく「非キリスト教徒のための、『教養としてのキリスト教入門』といった性格のもの」であるという本書。キリスト教とは何かを知りたい人が、聖書入門にとどまらず、キリスト教を歴史的に概観しようとするには、絶好の入門書である。
というのも、著者は本書の中で、ユダヤ教とキリスト教、ナザレのイエス、キリスト教の成立を聖書を引用しながら説き起こした上で、約2000年にわたるキリスト教の歴史を述べ、さらにキリスト教と現代について、分かりやすく、しかも230ページ余りの小さな新書版に簡潔にまとめて述べているからである。
著者は、北星学園大学および同大学院で教授を務めた、聖書学、宗教学、キリスト教学が専門の研究者であり、教育者である。
これまで、『キリスト教入門』と題する本は、国立国会図書館の蔵書データを検索した限りでも、1940年代以降、300冊をゆうに超えている。しかし、ここ数年の間に出版されたキリスト教入門書では、そのような専門家がキリスト教を歴史的な視点から簡潔にまとめた本は、たくさんありそうで、実は意外と少ないのではないか。
その最新刊でありジュニア新書である本書は、「若いみなさんにとって」と、「はじめに」で記しているとおり、若い世代を意識して書かれている。対象とする読者の年齢層は明記されていないが、高校生以上なら容易に読める内容ではないか。
「本書は、キリスト教の布教伝道のためでも、キリスト教の信仰を深めるためのものではなく、むしろノン・クリスチャン(非キリスト教徒)を読者に想定し、世界の思想や歴史や社会に大きな影響を与えて来た──そして今でも与え続けている──キリスト教という宗教について、正しく基礎的な知識と理解を養っていただくために書かれたものです」と、著者は記している。
さらに、著者は、本書を「キリスト教についての基礎的で適切な情報を得るための教養書」「世界史や倫理などを学ぶ上での副読本」として、広く用いていただけたら、と述べている。
もっとも、「非キリスト教徒のための」本とはいえ、この本はキリスト教徒が読んでも、そのような基礎知識を身につけるための入門書としては、十分に読み応えのある本ではないかと思う。
さらに、聖書が引用された箇所については、「できればご自分で聖書に当たって確認してください」と著者は述べている。例えば、キリスト教主義学校の聖書科のクラスで、この本が副読本や参考書として使われることもあるだろうか。またそういう機会のない方や一般の大人でも、聖書を片手にこの本を読めば、キリスト教についての基本的な理解が深まるのではないだろうか。
ただ、大阪にある出版社「創元社」のウェブサイトによれば、2月10日にはキリスト教学校教育同盟の編集により、中学生から読めるテキスト『キリスト教入門』(3巻シリーズ)の第1巻が同社から出版されるという。これは、礼拝や教会、そしてとりわけ聖書に力点が置かれたもののようである。しかし、山我氏による本書はそれとは異なり、キリスト教の歴史に力点が置かれているのが特徴である。
なお、本書の帯には「欧米の歴史の理解が深まる」と書かれているが、実際は中南米やアジア、アフリカのキリスト教についても少しだけ触れられてはいる。欲をいえば、太平洋諸国なども含めて、南半球のキリスト教についてももう少し詳しく書いてほしかったと思う。
とはいえ、本書を読む人は、これから現代の世界を理解しようとするきっかけをつかめるのではないか。
『キリスト教入門』:山我哲雄著、岩波書店、2014年12月19日発行、定価860円(税抜)