日本聖書協会が毎年、聖書普及のための事業に貢献した人物・団体に贈る「聖書事業功労者賞」が今年、世界的なセム語学者であるライデン大学名誉教授の村岡崇光氏に贈られることが決まった。
村岡氏は、1938年広島市生まれ。東京教育大学言語学科博士課程中退後、1970年ヘブライ大学(イスラエル)で博士号取得。ライデン大学(オランダ)、マンチェスター大学(英国)、メルボルン大学(オーストラリア)で教鞭を取った世界的なセム語学者。聖書ヘブライ語、現代ヘブライ語、シリア語、アラム語、エチオピア語、ウガリト語などに関する著書論文が多数ある。
2003年にライデン大学を退官してからは、韓国、インドネシア、シンガポール、香港、フィリピン、中国、台湾、マレーシア、ミャンマー、タイの10 カ国の聖書協会や神学校で講義を続け、アジアにおける聖書翻訳と聖書理解の進展に貢献してきた。これらの講義は、謝礼なし、旅費も自前の完全なボランティアで行われているが、村岡氏がそれを始めた理由は太平洋戦争にまでさかのぼる。
朝日新聞「ひと」欄(7月26日付)に掲載された紹介によれば、日本と友好関係の深い国だと思っていたオランダに赴任した際、実際は違う側面があるということを知ったという村岡氏。
大学の同僚はどこかよそよそしく、オランダを訪ねた海部俊樹首相(当時)が慰霊碑に供えた花束が池に投げ捨てられる事件も起きた。調べると、オランダの植民地だったインドネシアで日本軍による非道な扱いを受けた元捕虜や民間抑留者が多くいることが分かった。日本に補償を求める動きもあり、オランダ社会には反日感情が渦巻いていたという。
本や資料を読みあさった村岡氏は、インドネシア帰りのオランダ人と日本人が太平洋戦争とその後の歴史への理解を深めるために語り合う、「日蘭(にちらん)対話の会」を始めた。過酷な抑留所生活、泰緬(たいめん)鉄道建設工事など、戦争が人々に残した深い傷に触れる重いテーマが取り上げられてきた。
こういった経験から、「日本が過去の負の遺産を正視し、誠実に行動するまで日本人である覚悟」を持つ村岡氏は、2003年以降毎年、日本が侵略・占領したアジアの大学などで5週間、無償で教壇に立っている。「対話の会の学びから、口先の謝罪ではなく、心を行動に表すべきだと思ったのです」
12月11日には、日本基督教団富士見町教会(東京都千代田区)で、日本聖書協会主催のクリスマス礼拝(午後3時〜同4時半)が開かれ、その中で聖書事業功労者表彰式が開かれる。また、クリスマス礼拝前には、村岡氏が「私のヴィア・ドロローサ 太平洋戦争の爪痕をアジアに訪ねて」と題して講演会(同1時〜同2時半)を行う予定。
いずれも参加無料だが要申し込み。詳細はパンフレット(講演会・クリスマス礼拝)参照。申し込みは、パンフレット裏面の申込書に必要事項を記載してFAXかメール、または専用フォーム(講演会・クリスマス礼拝)で。締め切りは12月5日。