東京基督教大学は、米ジョン・テンプルトン財団の助成を受け、今年から約3年にわたる新しい研究プロジェクトを始動させた。プロジェクトの専用サイトも立ち上げ、同大学が11日に発表した。このプロジェクトは、東日本大震災後の日本のキリスト教ミニストリーの「理論」と「実践」を柱とするもので、専門家らによる研究会(理論)だけではなく、地域社会のミニストリーを支えるリーダー、ケアワーカーの育成(実践)のために、セミナー、ワークショップ、シンポジウムなどを開催する。
プロジェクト名は、「日本におけるミニストリーのための諸科学:自然災害に直面したキリスト教ミニストリーの理論と実践(Science for Ministry in Japan: The Theory and Practice of Christian Ministry in the Face of Natural Disasters )」。プロジェクトリーダーは同大学院教授で共立基督教研究所長の稲垣久和氏、プロジェクト共同リーダーは同大学院教授で同神学研究科委員長の山口陽一氏が務める。
プロジェクトの概要説明では、日本的スピリチュアリティの基本は大乗仏教によって性格付けられたと指摘。しかし、その中にある聖・俗の二元論のうち、聖は私的領域に限定され求められ、公共的領域は俗のままであったと説明している。しかし、震災後からの救援では、「公共的領域でのスピリチュアル・デベロップメントの兆候が見られ、今後の日本でのモデルになる可能性がある」としている。
その上で、「国家神道のようにトップダウンに国家の側からではなく、人々の協力による市民社会と幸福形成にボトムアップに働くスピリチュアリティがどのようなかたちを取っていくのか。西洋とは異なる日本的文脈にあるこのテーマを、領域横断的に探究するのが今回プロジェクトの主な目的」としている。また、「このプロジェクトの目的は、身体的・心理的・社会的・スピリチュアルという世界認識の4層を包含する総合的な『ケア学(Care Studies)』を構築し、その成果を実践に応用することにある」ともしている。
実際には、同プロジェクトでは、1)自然神学、2)ケアの倫理、3)キリスト教と地域社会、という3つのテーマについて、理論と実践の二面から活動を進めていく。
1)自然神学では、「なぜ2011年3月11日のような大地震・津波をもたらし過酷な試練を日本人に与えるのか?」「自然科学研究からの予知を神学はどう受け止めていくのか?」といった問へアプローチをしていく。2)ケアの倫理では、「震災時に見られた日本人と日本社会の抑制された行動に見られる他者を思いやる特性は独自の倫理観(ケアの倫理)と言えるのかどうか」といった問いに、3)キリスト教と地域社会では、震災後の社会的なケアとしての町づくりとそこに関わる宗教の公共的役割についてアプローチしていく。
ほぼ年1回のペースで開催する3回のシンポジウムは、これらの3テーマを横断的に扱える内容で行なわれ、第1回目「賀川豊彦と公共神学」は来年3月14日に予定されている。また、第2回目「フクシマ原発事故とコミュニティの再生」は2016年春、第3回目「コミュニティ形成における宗教の公共的役割」は2016年冬に、それぞれ予定されている。
また、ワークショップ「いのちのケア・セミナー」は、第1回目を来年1月13日に行なう予定。1年目はミクロのいのちに注目し、2年目は世界、環境などマクロな視点に広げ、毎回ユニークな活動を行っているゲストを迎え、対話を行なうとしている。
同プロジェクトは同大学の共立基督教研究所と国際宣教センターによって企画・実施される。詳細は同プロジェクトの専用サイトを参照。