政府は1日午後、首相官邸で臨時閣議を開き、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を決定した。これまで、自衛隊は日本へ対する直接的な攻撃にのみ最小限の武力行使が認められていたが、今回の決定は、同盟国など親密な他国が攻撃された場合も、一定条件の下で自衛隊が反撃することを可能とさせる。国内メディアは、「専守防衛を堅持してきた戦後日本の安全保障政策は歴史的転換点を迎えた」などと大々的に伝えた。
日本バプテスト連盟の理事会(奥村敏夫理事長)は同日、「歴史的暴挙とも言える決定」などとして、抗議声明を発表。「今回の決定は、歴史の反省に立って『戦争の放棄』を世界に公約した日本国憲法第9条を実質的に破棄する行為であり、歴史に対しての裏切り行為、そしてアジア周辺諸国のみならず世界に対する背信行為です」と非難した。
さらに、集団的自衛権の行使を容認するため、憲法改正によらず解釈変更を用いた手法については、「立憲主義に対する挑戦であり、国民を愚弄・軽蔑する暴挙です。何一つ、義に適うものはありません」と強く批判した。
「私たちは、キリストの平和に立脚します。『暴力、武力によっては平和を生み出すことはできない』という聖書の指針に堅く立ちます」とし、5項目の祈りをまとめたシートも公開した。
憲法解釈の変更について、政府は閣議決定文で、「パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」と情勢を説明している。
その上で、紛争が生じた場合、まずは外交努力による平和的解決、これまでの憲法解釈内で整備されてきた法令での対応を採ることは当然としながらも、「それでもなお我が国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要がある」とし、下記の3条件を満たした場合、集団的自衛権は「憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」としている。
- 日本と親密な関係にある他国に対して武力攻撃が発生し、これより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
- これを排除し、日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない
- 必要最小限度の実力行使にとどめる
安倍晋三首相は閣議決定後の記者会見で、「現行憲法の基本的考え方は今回の閣議決定でも何ら変わらない。海外派兵は一般に許されないという従来の原則も全く変わらない」(時事通信)と説明。「日本が戦後一貫して歩んできた平和国家の歩みは変わることはない」(同)などと強調した。
しかし、日本バプテスト連盟は声明で、「集団的自衛権の行使容認は、政府のどのような説明をもってしても、その本質は『米国主導の戦争への事実上の参加』以外のなにものでもありません。この決定によって、日本は、たちまちにして予測不能な戦争・紛争の当事者となり、また攻撃目標となってしまいます」と指摘している。
一方、自民党と公明党はこれまでの与党協議の中で、8つの具体的な事例を挙げ、集団的自衛権の行使が可能かどうかを検討してきたが、明確な答えは出ていない。政府は、限定的な集団自衛権の行使は「従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置」としているが、具体的にどの事例で認められるか不明確であるため、解釈次第で行使の範囲が拡大する可能性が指摘されている。政府は今後、閣議決定を受け、自衛隊法改正などの法整備に着手するが、法整備のレベルでは与党内で意見が対立する可能性もある。
時事通信によると、防衛省は同日、小野寺五典防衛相をトップとする法整備検討委員会を発足させる。閣議決定を受け、1)武力攻撃には至らないグレーゾーン事態、2)国連平和維持活動(PKO)などの国際協力、3)集団的自衛権、の3つの分野で法整備の検討を開始する。このうち、グレーゾーン事態、国際協力の2分野については、秋の臨時国会への関連法案提出を目指すという。しかし、集団的自衛権については、来春の統一地方選での争点化を避けるため、来年の通常国会後半に先送りする方向だという。