映画『ゴジラ』のハリウッド版『GODZILLA』が、16日から米国をはじめとする60以上の国で公開された。先週末の推定興行収入は1億9620万ドル(約200億円)で、世界的なヒットが報じられている。日本での公開は7月25日。
1954年に日本で生まれた第1作『ゴジラ』から60年を経てなお加熱する人気に、あらためて “ゴジラ伝説” の強さが印象づけられた。昭和から平成にかけて日本で製作されたシリーズは計28作品。ファンやマニアが世界中に存在し、今では「ゴジラ」のみならず「カイジュウ(怪獣)」も、そのまま世界に通用する。
「ゴジラ」の英語名が「GOJIRA」ではなく「GODZILLA」であることを不思議に思った人も少なくないだろう。長い話を短くすれば、「ゴジラ」とは「ゴリラ(Gorilla)」と「クジラ」を合わせた命名であり、そこに「GOD」を掛け合わせたのも意図的なことのようだ。
ファースト『ゴジラ』を米国で興行するにあたって、日本の映画会社が英語名の綴りを考案したとされる。神を意味する「GOD」を入れることで、強大、神性、唯一無二の存在と、欧米人に認識してもらう狙いがあったようだ。結果、海外では「ガッズィーラ」と発音され、あがめるべき「神獣」といったニュアンスさえ含むことに。
ハリウッドが製作した『GODZILLA』は今回が初めてではなく、1998年に米国版第1作が公開されている。重量感に欠け、イグアナに似た顔とダチョウのように細い足で駆け回る姿に「あれはゴジラではない」との批判が内外から上がり、ゴールデンラズベリー賞最低リメイク賞を受賞。ゴジラファンからは「GOD」を外して「ZILLA」(ズィラ)と呼ばれた。
■ ゴジラの社会性とメッセージが再び?
新作『GODZILLA』に対する批評家や一般からの反応は、おおむね好意的のようだ。「こんなアイデアを考えつくなんて天才的だ」「日本の人たちはゴジラを誇っていい」といった感想がメディアを通して報じられた。英語版のオフィシャル・トレーラー(予告編)の再生回数は2700万を超えている。
東日本大震災を念頭に置いたとみられる原発事故や津波のシーンも挿入されており、それゆえか最初の『ゴジラ』が有していた文明社会への警鐘を受け継ぐ作品との評価もされているようだ。しかし、そうしたメッセージの片隅に、私たちが見過ごしてはいけないと思わせられる疑問点も見受けられた。
ゴジラはそもそも、水爆実験の影響で200万年の眠りから目覚めた古代生命体という設定だ。それは、1946年から58年にかけて南太平洋のビキニ環礁で米国が実際に行った23回の水爆実験に材に取ったもので、核兵器、放射能、科学技術、人類のあり方を問うという意義を映画に与えていた。
ところがその理念を覆すように、『GODZILLA』では渡辺謙が演じる科学者に「水爆実験の真の目的は、あれを殺すためだった」という “解説” を語らせている。従来シリーズの深部を裏返す斬新な発想と言えなくもないが、本音は米国にとって都合のいい改変ではないのか。米国市民が安心快適に鑑賞できる免罪符が、そっと挟み込まれたかのようである。
1954年の初作『ゴジラ』で特撮監督(当時は「特殊技術」)を務め、その後のゴジラとウルトラマンのシリーズを指揮した故・円谷英二は、福島県出身のクリスチャンだ。東京・府中市にある墓石には十字架が刻まれている。円谷氏が『GODZILLA』を観たとしたらどのように評するのか、尋ねてみたい気がする。(高嶺はる)
■『GODZILLA』日本語サイト
http://www.godzilla-movie.jp