大地震で被災した教会に代えて「紙の教会」「紙のカテドラル」など数多くの優れた建築物を設計したことなどで知られる建築家の坂(ばん)茂氏(56)が、建築のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した。同賞を主宰する米シカゴのハイアット財団が24日(日本時間25日)に発表した。
坂氏は、1995年1月の阪神淡路大震災で焼失したカトリック鷹取教会(現在再建中のカトリックたかとり教会)のために紙の建築によるコミュニティホール「紙の教会」を設計したほか、2011年2月のカンタベリー地震で街の象徴であったニュージーランドのクライストチャーチ大聖堂が深刻な被害を受けたのを受けて仮設の「紙のカテドラル」を設計した。
この賞は、建築した作品が才能と展望・責務という資質を持ち合わせていることを表し、それが建築の才能を通じて人類と建築環境に継続的かつ重大な貢献をもたらした、生存している建築家の栄誉をたたえることを目的としたもので、世界的に展開しているホテル・ハイアットを経営するプリツカー家の故ジェイ・A・プリツカー氏(1922~99)が妻のシンディとともに設立した。
ハイアット財団は坂氏について、「東京とパリ、ニューヨークに建築事務所を構える坂氏は、建築の分野では類まれである。彼は優雅で革新的な作品を個人客のために設計し、同じ発明的で工夫に富んだ設計法を自らの膨大な人道活動に用いている。20年にわたって坂氏は世界中の自然災害や人災の現場へ旅をし、地元の市民やボランティア、学生とともに働き、簡素で威厳があり低費用で回収可能な避難所や地域社会の建築物を被災者たちのために設計し建造した」と述べている。
プリツカー賞の審査委員長を務めた英国のピーター・パルンボ卿は、「坂茂氏は自然の力であり、それは自然災害によって滅ぼされた地域でホームレスや財産を失った人たちのための彼の自発的な働きに照らせば全く適切だ。しかし彼は建築のパンテオンに対する資格のチェック項目をいくつも満たしている。ほんのいくつかを挙げるならば、最新鋭の素材と技術をとりわけ強調した彼の主題についての深い知識、全般的な好奇心と責任感、終わりなき革新、狂いのない目、鋭い感受性などだ」と述べた。
「紙の教会」は2005年に取り壊されたが、1999年に台湾中部で発生した台湾大地震の被災地埔里へと2006年に移築され、「紙教堂」として人々に親しまれているという。
この「紙の教会」を基にして造られた「紙のカテドラル」は、坂氏によると、「現地で調達可能な紙管とコンテナーを用いて三角形の断面を形成する。オリジナルの大聖堂の平面と立面のジオメトリーを受け継ぎ、同じ長さの紙管の角度を徐々に変化させている。700人収容可能で、教会としての機能の他に、多くのイベントやコンサートとしての使用も視野に入れている」という。
なお、授賞式は6月13日にオランダのアムステルダム国立美術館で行われる。