聖路加国際病院理事長の日野原重明氏(98)が12日、ルーテル学院の創立100周年記念講演会で講演し、同学院の学生や関係者をはじめ約250人が聞き入った。日野原氏は、「いのちとはあなたがもって使える時間」と語り、「あなたはいままでたくさんの時間を使ってきましたが、これからあるたくさんの時間を、だれのために使いますか」と問い掛けた。
日野原氏は1911年に牧師の家庭に生まれ、京都帝国大学医学部を卒業後、41年に聖路加国際病院の内科医となり、内科院長、院長を歴任。現在では、財団法人ライフプランニングセンターをはじめ、医学、看護、福祉教育などさまざまな分野で活躍している。日本でもっとも有名なクリスチャンの一人である。
日野原氏は講演で、いのちという与えられた時間の大切さを強調し、「人のために自分のもつ時間をささげることは、人のために自分のいのちをささげること」と語った。さらに、「自殺とは自分が使う権利のある自分の時間を捨てること」「他人を傷つけ、殺すことは他人の生きる時間を壊すこと」と説明。「人のいのち、人のもっている時間を尊重しよう。それが平和だ」と訴えた。
そのうえで、日本のクリスチャンについて、「地上に平和をもたらすために、どれだけ時間を使っているか」と指摘。「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ」(ルカ2:14)との賛美を受けてこの世に誕生したイエス・キリストを信じるクリスチャンが、平和のためにより積極的に行動しなければならないと訴えた。
また、オバマ米大統領のノーベル平和賞受賞に触れ、「これは世界の人が応援するため」の賞と評価。「これが本当の賞になるためには、聴いた人が実際に行動しなければならない」と語った。
日野原氏は、教育についても言及し、そもそも「育てる」という意味のフランス語が「上に持ち上げる、高める」という意味を持つことを強調。「育てるというのは、その人のいのちを高めること」と、教育の重要性を説いた。そのうえで、イギリスの宗教詩人ロバート・ブラウニング(1812〜1889)がのこした「地上では欠けたる弧、天上では全き円」という詩の世界を紹介。自分が地上にいる間はかぎりなく水平にちかい弧を描き、巨大な円の完成は、後に続く後輩たちに委ねるという自身の壮大なビジョンを語った。
人生の終え方については、マルクス・アウレリウス(121〜180)の言葉「つかの間、自然の摂理に身を委ね、静かに旅の終わりを迎えるがよい。オリーブの実が熟して落ちる時、支え続けた枝を祝し、いのちを受けた幹に感謝をするように」を紹介。死を迎えるときに、自分を育ててくれた環境や周りの人々に感謝の気持ちをささげることのできる生き方を、最善の生き方として提示した。
最後に日野原氏は、「寿命は神からいただいた時間」「もっているものは全部くちる」と語り、「みなさんのもっている借り物の時間を、本当に充実して返すためにはどういう行動をすればいいのかを考えてほしい」と問い掛けた。