チャドは中央アフリカに位置する内陸国だ。同国は乾燥したサヘル地帯とサハラ砂漠にまたがっている。公用語はフランス語とアラビア語だが、国内には多様な民族が暮らし、多様な言語が話されている。主な産業は農業と牧畜だ。
チャドのゲラ地方に住む民族集団は「ハジャライ」と呼ばれている。これは「山の民」という意味で、国の中央部に位置する丘陵地帯には、25の異なる言語を話す55万人以上のハジャライの人々が暮らしている。気候は乾燥して暑く、6月から9月にかけて雨季がやってくる。村々では多くの人々が農業や牧畜で生計を立てているが、貧困は彼らにとって深刻な問題だ。
ゲラ地方の住民の大多数はイスラム教徒だが、伝統的なアフリカの民族信仰も混在している。また、ほとんどの民族グループの中には、最大で5%ほどのキリスト教徒もいるが、ケンガ語とゲルジコ語を話す民族では、キリスト教徒の割合が約30%にも上る。
ハジャライ諸語のうち、いずれもまだ聖書の全訳が存在しないが、4つの言語には新約聖書がある。今年中に5つ目の言語であるダジョ語の新約聖書が利用可能になる予定だ。住民の半数以上が読み書きを習得していないため、識字教育が重要な課題となっている。同時に、文字に頼らない創作的な芸術を通じて福音を伝える工夫もなされている。
シャロンは、チャド人のグループと共に、イエスの死と復活を題材にした劇をリハーサルし、ゲラ地方の主要都市モンゴの広場で、聖金曜日(グッドフライデー)に上演した。約200人の大人や子どもたちが、イエスに何が起きるのかを間近で見ようと、役者たちの周りに集まった。
あるイスラム教徒の男性は、十字架のシーンをスマホで撮影しながら、隣の友人に「本当にイエス・キリストはあんなふうに鞭打たれ、釘で打たれたのか」と尋ねた。その友人も知らなかったため、男性は「真相を知りたい」と、ポツリと漏らした。
また2人のイスラム教徒の女性は、イエスの受けた苦しみに深く心を動かされ、「信じられないほどだった。もっとイエスのことを知りたい」と話していたという。キリストについての彼らの関心は決して小さくないのだ。
ハジャライ書言語への聖書翻訳の努力とともに識字教育が必要だ。また劇や映画のように、識字率に頼らず福音が届けられる試みにも注力されなければならない。これらの働きが、ハジャライ族の間で豊かに実を結ぶように祈っていただきたい。
■ チャドの宗教人口
イスラム 52・8%
プロテスタント 10・4%
カトリック 21・3%
土着の宗教 7・7%
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