米国聖公会ワシントン教区のマリアン・エドガー・バッディ主教(65)は22日、米ABC系のテレビ番組「ザ・ビュー」(英語)に出演し、就任したばかりのドナルド・トランプ大統領に対し、説教の中でLGBTQ(性的少数者)や不法移民の人々に「慈悲」を示すよう求めたことについて語った。
バッディ主教は21日、トランプ氏も出席してワシントン大聖堂で行われた「国家祈祷礼拝」(英語)で説教を行い、「団結」について語った。一方、LGBTQや不法移民の人々が「恐怖を感じている」と述べ、トランプ氏の政策を間接的に批判。全米的な論争を引き起こした。
バッディ主教は説教の終盤に、「大統領、最後のお願いをさせてください」と呼びかけ、「今、恐怖を感じているわが国の人々に慈悲を示してください」と求めた。その中には、「民主党、共和党、無所属の家庭にいるゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの子どもたち」が含まれるとし、彼らの中には命の危険を感じている人もいると語った。
また、不法移民についても触れ、次のように話した。
「私たちの農作物を収穫し、オフィスビルを清掃し、養鶏場や食肉加工場で働き、レストランで私たちが食事をした後の皿を洗い、病院で夜勤をこなす人々。彼らは、正規の市民ではないかもしれないし、適切な書類を所持していないかもしれませんが、その大半は犯罪者ではありません」
この説教について、バッディ主教はザ・ビューの中で次のように語った。
「昨日の朝、私の果たすべき責任は、内省し、国民と共に団結を祈ることでした。私は、団結の基盤とは何かを考え、あらゆる人の名誉と尊厳の尊重、誠実さ、謙虚さを強調したいと思いました。また、団結には、ある程度の慈悲、思いやり、理解が必要だということをも理解しました。今、わが国では、多くの人々が本当に恐怖を感じています。そこで、団結のための礼拝という機会を用いて、誰もが尊厳を持って扱われる必要があり、慈悲深くなければならないと述べました。私は分断的で極端な考え方を打ち消そうとし、一般の人々が傷つけられている状況を打破しようとしたのです」
最前列に座ってこの説教を聞いていたトランプ氏とメラニア夫人、またその隣に座っていたJ・D・バンス副大統領とウーシャ夫人らは、説教の内容に明らかな反応を見せた。この点について尋ねられたバッディ主教は、彼らのボディーランゲージに焦点を当てることは避けたとして、次のように話した。
「私は説教をする際、人々の反応を読み取ろうとするのはとうの昔に諦めています。私は言いたいことが胸にあったので、それを彼らに委ねる他ありませんでした。つまり、私の言葉が何を意味するにせよ、彼らにそれを伝え、彼らが言うように、残りは神に委ねるしかありませんでした」
トランプ氏は礼拝後、この説教に強く反発し、自身のSNS「トゥルースソーシャル」への投稿(英語)で、バッディ主教を「急進左派の強硬なトランプ嫌い」だと非判。「われわれの国に入ってきて殺人を犯した多くの不法移民に言及しなかった」などと述べた。また、教会に政治を持ち込んだとして公の場で謝罪するように求めた。
トランプ氏の批判に対し、バッディ主教は現在の「軽蔑の文化」の一例だとして、次のように述べた。
「私たちは極めて政治的な状況にあります。私が警戒していることの一つに、私たちが生きている軽蔑の文化、即ち『人々が言っていることをすぐに最悪の解釈へと持っていってしまうこと』があります。私は、語られるべきだと感じた真実を、できる限り敬意と優しさを持って語ろうとしました。また、しばらく公の場では聞かれなかった他の意見も、話に取り入れようとしました」
バッディ主教はこの他、外国人の犯罪捜査などを行う移民関税執行局(ICE)の権限を拡大し、必要と判断された場合、従来保護されていた教会や学校、病院といった場所への同局職員の立ち入りを認めるとするトランプ氏の政策についても触れた。
バッディ主教は、教会が聖域としての機能を失っていくことを「心が痛む」と表現。法律に明記されていないものの、人々が安全を求める場所を尊重することは「不文律の政策」だと主張した。
「私たちの教派には、移民やその他の弱者層のニーズに応える教会がたくさんあります。今こそ、特別な配慮をもって、基本的人権が守られ、人々のニーズが満たされるようにしなければなりません」
「私は、トランプ氏と一対一で話す機会に招待されたことはありません。その機会があれば歓迎します。その機会がどう実現するかは分かりませんが、私は、トランプ氏や話を聞いている全ての人に、どのような人に対しても同じように敬意を払うことをお約束します」
進歩的な姿勢で知られるバッディ主教は2020年、同じく米国聖公会ワシントン教区に所属する聖ヨハネ教会の前で、聖書を手にして写真撮影を行ったトランプ氏を批判する寄稿(英語)を米ニューヨーク・タイムズ紙に掲載している。
当時は、白人警官が黒人男性のジョージ・フロイドさんの首を圧迫して死に至らしめた事件を受け、全米各地で抗議活動が行われていた。ホワイトハウス周辺にも抗議をする人々がいたが、トランプ氏が写真撮影のため聖ヨハネ教会に徒歩で向かった際、抗議者が強制的に排除されたとして、批判の声が上がっていた。バッディ主教もその一人で、寄稿ではトランプ氏が教会と聖書を政治目的のために利用したと主張。その行為に対し「憤慨」と「恐怖」を抱いたとし、「イエスの教えとは正反対」などと述べていた。
国家祈祷礼拝は、フランクリン・ルーズベルト大統領時代の1933年からワシントン大聖堂で続く伝統行事。新大統領が就任した後、政権間の平和的な権力委譲を記念する最初の礼拝として行われている。異宗教間の合同礼拝として行われ、礼拝中にはキリスト教やユダヤ教、イスラム教の伝統に従った祈りの呼びかけも行われる。