日本基督教団教師委員会(古旗誠委員長)は28日、同教団の機関紙である「教団新報」で、同教団の正教師(牧師)であり、聖路加(せいるか)国際病院(東京都中央区)でチャプレンをしていた柴田実氏を免職としたと発表した。
柴田氏は2017年、難病のため聖路加国際病院に通院していた患者の女性に対し、2度にわたり病院内で性加害を行ったことが、昨年12月に判決が出た民事訴訟で認定されていた。日本基督教団は判決後、対応の遅れと組織的な不備を認め謝罪する文書をホームページに掲載。同教団の雲然俊美議長は今回の発表の中でも、被害者の女性に対し「心身共に多大な苦痛を与えてしまいましたこと、被害の訴えに対する教団の対応が不十分であったことを心よりお詫びいたします」と改めて謝罪した。
この事件では、加害者である柴田氏を擁護し、被害者の女性を加害者扱いする内容の声明が、日本基督教団の牧師らを含む関係者らから出され、SNSで広く拡散されるなどした。そのため女性は9月、声明の内容は2次加害に当たるとして、同教団の牧師2人を含む牧師3人と、声明を掲載したキリスト教系新聞2紙の発行元を提訴した。
雲然氏は、こうした2次加害行為についても触れ、「被害にあわれた方に対して、SNS上で誹謗中傷と受け取られ得る発信があったことも確認しました。このこともまことに遺憾であり、今後、誠実に対応してまいりたいと思っております」と述べた。
日本基督教団における教師(牧師・伝道師)に対する戒規は、戒告、停職、免職、除名の4種で、免職は2番目に重い。08年には、女子中学生にみだらな行為をしたとして逮捕された中部教区の男性伝道師が、今年7月には、教務教師として勤務していた高校の女子トイレに侵入したとして逮捕された奥羽教区の男性牧師が、同じく免職とされている。一方、教会の教育主事として働いていた20代の女性に対し性加害行為を行ったことが、05年の民事訴訟の判決で確定した九州教区の男性牧師については、教区は独自に調査を行い、辞職を勧告するなどしていたが、教団の当時の教師委員会は最も軽い戒告にとどめていた。
なお、柴田氏を巡っては、日本スピリチュアルケア学会が7月、日本基督教団の戒規適用に先立ち、除名とする処分を行っている。
被害者の女性「謝罪とは受け止められない」
日本基督教団の今回の発表について、被害者の女性は本紙に対し次のように語った。
「柴田氏を免職とした事由について説明もなく、これではなぜ免職となったのか分かりません。また、これまでの経緯を踏まえれば、議長のコメントも被害者への真摯(しんし)な謝罪とは到底受け止められません。この件については、民事訴訟の判決が出るまで、教団、教区ともに長期間にわたり放置してきましたが、そうしたことについては一切言及がありません。2次加害についても、事実を解明したり、責任を取ろうとしたりする姿勢は全くなく、誠実に対応すると言っていますが、責任回避と隠蔽(いんぺい)を繰り返すだけにしか思えません」
女性によると、日本基督教団や対応窓口となった神奈川教区は当初、柴田氏を擁護する関係者の声や、事件現場が聖路加国際病院であったことなどを理由に、女性が被害の相談や対応を求めても全く応じてくれなかったという。また、昨年12月に教団のホームページに掲載された謝罪の文書についても、先んじて謝罪のメッセージを公表した日本聖公会の対応を伝えたところ出てきたもので、掲載について女性本人には一切連絡がなかったという。8月には要望事項をまとめた文書を、代理人弁護士を通して送ったが、それについても返答はまだない。10月には教団の常議員会を傍聴する機会を得たが、そこでも深く傷つく発言があったと話す。
2次加害については、神奈川教区が女性の申し立てを受理し、第3者委員会を設置して調査を行うことで協議してきたものの、証拠資料に関する協力などはなく、全貌の解明は困難な状況だという。教団からは、2次加害について独自に判断することはできないと伝えられたことから、訴訟を起こさざるを得ない状況に追い込まれたと女性は話す。
2次加害を巡り女性が提訴した牧師3人は、いずれも日本聖書神学校の卒業生で、同神学校の名前を冠したSNS上のグループなどで活動していたとされる。同神学校は1月、2次加害の声明に賛同した人々の中に学校関係者が含まれていたとして、謝罪する文書をホームページに掲載した。女性はその後も同神学校と連絡を取り合ってきたが、被害者としての声を真摯に聞いてもらえることはなく、行われた調査は非公開かつ任意の内部調査にとどまったと話す。
共に歩む会「戒規の報告で終わらせないで」
女性を支援する「聖路加国際病院チャプレンによる性暴力サバイバーと共に歩む会」は、女性が被害を受けてから6年余りを経てようやく柴田氏に対する戒規が決まったことを受け、声明を発表した。
声明は、「性暴力の2次加害、3次加害は、1次加害よりも深刻」だと主張。「キリスト教界における性暴力被害者への対応で最も2次加害となる言動は、被害者に対して、神様は裁判所以上に正しく裁いてくださるなどと言い、愛、赦(ゆる)し、和解を強要することです」「2次加害を訴える被害者に対して、加害意識なく、被害者をさらに中傷することは3次加害です。木村花さんのように、被害者は命を落とす危険性があります」などと述べた。
また、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏による性加害事件や、聖職者による児童性的虐待が世界的に明らかになってきたカトリック教会の対応などについても言及。性加害者には更生プログラムを受けさせ、牧師やスピリチュアルケア師など、対人的な接触の多い職業以外に限定して社会復帰させることが、新たな被害者を生み出さないために必要だとした。その上で、「この戒規の報告を持ってこのまま終わらせることなく、社会的階層の中で最も弱い立場に置かれている被害者、当事者の声に耳を傾けて、伴走」していくことを求め、キリスト教界と社会全体の変革を望むとした。
清瀬市市議「キリスト教全体の社会的信頼をも失墜させるもの」
女性が2次加害の声明を巡り提訴した際、「共に歩む会」が主催した集会に参加した東京都清瀬市の宮原理恵市議(立憲民主党)は、「今回、驚いたのは、必死の思いで声を上げた被害者に対し、教会関係者による攻撃が組織ぐるみで行われたこと」とコメント。「私が直接知っているキリスト教関係者は、人々の苦しみに寄り添い、地域のため、子どもたちのために尽くしてくださっていますが、今回のことは、キリスト教関係者全体の社会的信頼をも失墜させるものであり、残念でなりません」などと話した。
その上で、女性が起こした一連の訴訟は、2次加害を防止するための立法や、日本における聖職者による性加害の実態究明、性被害者に対する理解を広めることにつながる社会的意義があるものだとし、今後も訴訟を注視していくと話した。