聖路加(せいるか)国際病院でチャプレンをしていた男性牧師が、当時患者として通院していた女性に対して性暴力を行った事件について、牧師が所属する日本基督教団は28日、対応の遅れと組織的な不備を認め、謝罪する文書を発表した。
事件を巡っては、女性が牧師と病院を相手取り提訴。23日に、牧師の性加害行為を認め、牧師と病院に対し110万円の支払いを命じる判決が出ていた。
文書は、総会議長の雲然俊美牧師と総幹事の秋山徹牧師の連名で出され、「原告の方(女性)の訴えに、真摯(しんし)に向き合うことなく、ここにまで至りましたことに深くお詫び申し上げます」と謝罪した。
対応の遅れについては、▽刑事事件で不起訴になったこと、▽事件が他教団の施設で起こったこと、▽牧師が無任所教師で当初、所在地を確定できなかったこと、を理由として挙げつつも、「原告の方から求めがあったにもかかわらず、長らく実質的な対応をしてきませんでした。本事案を扱う上において、教団内の組織に不備がありました」と認めた。
その上で、「いかなる理由があろうとも、対応が遅れましたこと、並びに、『被害を受けた』との声を丁寧にお聞きしてこなかったことに対して、日本基督教団として、重ねてお詫び申し上げます」と謝罪した。
今後は、牧師の養成・育成においてハラスメントに関する学習と啓発に努めるとともに、教会をはじめとする関連施設においても、再発防止策に取り組むと表明。さらに、今後類似の事案が発生した場合に迅速に対応できるよう、組織上の課題についても検討するとした。
被害女性に直接謝罪する方向で調整
日本基督教団の道家紀一総務幹事によると、女性に対してはまだ謝罪の言葉は伝えていないが、伝える方向で雲然氏と調整する考えだという。
また、謝罪の文書を公表した経緯については、▽牧師自身が訴訟の中で性的な行為を一部認めていること、▽日本基督教団神奈川教区で動きがあり、一審の判決が出た区切りであること、の大きく2つの理由を挙げ、総合的に判断したと説明した。
道家氏によると、牧師に戒規を適用する場合は通常、教区が教団の教師委員会に申し立てする必要があるという。この点について道家氏は、「謝罪文では、そうしたシステムの欠陥があったことも認め、『組織上の課題についても検討することをお約束いたします』としました」と話した。
その上で、「公平に扱いたく、両者の言い分をはっきり聞いてからと思っていましたが、裁判の様子などを聞くと、(牧師)本人がそういう(性的な)行為を認めたという点では、もはや弁明の余地はなく、同意というのも後付けの理由だと思いますので、その点については遺憾に思っています。無任所という立場ではありますが、教団の教師でありますから、謝罪せざるを得ないと思っています。対応してきた私としては、被害者に対して申し訳なく思っています」と語った。
被害女性「弁明としか感じられない」
一方、女性は本紙に対し、「牧師本人が性的な行為を行ったことを警察の取り調べに対して認めていたことは、既に2020年に提訴した時点で明らかになっていたことです。当事者の私自身に対する謝罪は全くなく、突然、ホームページに掲載されても謝罪とは思えません。弁明としか感じられません」と語った。
また、日本基督教団にはハラスメントの相談窓口を置かない教区もあることを指摘。「その場合、教団本部がハラスメントの申し立てを受理し、加害者の居所などを主体的に把握し、全教区で加害者の情報を共有するなど、教区を超えた相互監視システムを持つことが必要です」と語った。
牧師に対する戒規の在り方については、「日本基督教団の戒規は『懲罰ではなく悔い改めを促すもの』とされています。これでは、被害者が甚大な被害を被っても、加害者に対する罰則が存在しないことになり、結果的に加害者を擁護することになります」と訴えた。
その上で、「日本最大のプロテスタント教団として、全てのハラスメントや差別を禁止し、隠蔽(いんぺい)や被害者への2次加害に加担した者にも罰則を設けるなど、宗教の自治の中で人権侵害を根絶するための組織変革が必要だと思います」と語った。
事件を巡っては、神奈川教区が最近になって、女性からのハラスメントの申し立てを受理。今月6日に開かれた教区の常置委員会で、女性と牧師双方に対する聞き取りを始めることが報告・承認されており、今後本格的な調査が始まる。
この他、聖路加国際病院と関連のある日本聖公会も判決を受け、女性に対し謝罪のメッセージを送っている。