シグニスジャパン(カトリックメディア協議会)は12日、第47回日本カトリック映画賞に、松本准平監督の「桜色の風が咲く」を選出したと公式サイトで発表した。
「桜色の風が咲く」は、盲ろう者(視覚と聴覚の重複障がい者)として世界で初めて大学教授となった福島智(さとし)さんと、盲ろう者とのコミュニケーション手段として「指点字」を考案した母・令子さんの実話を基にした作品。女優の小雪が、12年ぶりに主演を務めた映画としても注目を集めた。
松本監督は自身もカトリック信者。身体障がい者とパーソナリティー障がい者の男女の恋愛を、実話を基に描いた「パーフェクト・レボリューション」(2017年)では、第42回日本カトリック映画賞のシグニス特別賞を受賞している。
1963年に兵庫県で生まれた智さんは、3歳で右目、9歳で左目を失明し、さらに14歳で右耳、そして18歳で左耳を失聴し、光と音の全くない世界で生きることになる。深い失意と孤独に沈み込む中、救いとなったのが指点字だった。再び他者とコミュニケーションすることができるようになった智さんは、83年に東京都立大学に合格し、盲ろう者として日本初の大学進学を果たす。そして、東京都立大学助手、金沢大学助教授などを経て、2008年には東京大学教授に。盲ろう者が常勤の大学教授となるのは世界初だった。
映画の公式サイトでは、「実話に基づいているとはいえ映画ですので、さまざまな脚色やフィクションは当然含まれています。それでも、幼いころの義眼のエピソードや運動療法に取り組んでいた時のエピソードなど、事実に基づいていることも少なくありません」とコメント。特に、ある朝、令子さんが突然、智さんの指に指点字の始まりとなるようなことをする場面は、「現実と映画がそのまま連続しているように感じました」と述べている。
日本カトリック映画賞は、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画の中から、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な作品に贈られる賞。1976年に創設され、これまでにアニメ版「火垂(ほた)るの墓」(88年)や、「博士の愛した数式」(2005年)、「おくりびと」(08年)などが受賞している。昨年は、和島香太郎監督の「梅切らぬバカ」が選ばれた。
シグニスジャパンはこの他、第2回シグニス平和賞に、谷津賢二監督の「劇場版 荒野に希望の灯(ひ)をともす」を選出したことも発表した。
「荒野に希望の灯をともす」は、アフガニスタンとパキスタンで、病や戦乱、貧困に苦しむ人々に寄り添い続けた医師・中村哲さんの現地活動35年の軌跡を追ったドキュメンタリー作品。プロテスタント信者の中村さんは、当初は医師として現地で医療支援に当たるが、干ばつで大量の犠牲者が出るのを目の当たりにして、農業用の用水路建設に生涯をささげることになる。そうした中村さんの活動を21年にわたって継続的に撮影してきた谷津監督の映像をまとめた作品で、中村さんが2019年末に銃殺された後、21年にDVDが発売され、翌22年に劇場版が公開された。
シグニス平和賞は、「平和の文化を推進する」というシグニスの理念にのっとり、15年に創設された。カトリックの世界観や価値観に合致し、特に強く平和を訴えかける優秀な作品に贈られる。第1回は、ベトナム戦争の米軍従軍カメラマンだった沖縄出身の石川文洋氏を扱った大宮浩一監督の「石川文洋を旅する」(14年)が選ばれている。