「障がい」について実践的に学ぶ学習会が23日、東京・四ツ谷のイエズス会・岐部ホールで開催された。学習会は、障がい者が平等に扱われる社会を目指して世界中で行われている「障害平等研修」(Disability Equality Training:DET)を用いて行われた。DETは、障がい者自身がファシリテーター(進行役)となって進めるワークショップ型の研修。この日は、キリスト教や仏教、神道、イスラム教などの各宗教から約60人が参加し、「障害とは何か」「どうすれば障害のない社会をつくれるか」といったテーマを、参加者一人一人が自身の体験を交えて考えた。
学習会を主催したのは、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会女性部会。女性部会は毎年、教育や貧困、医療など、さまざまなテーマについて学ぶ「いのちに関する学習会」を開催しており、今年は「障がい」をテーマにした。女性部会が障がい者に目を向けるようになったのは、東日本大震災の被災者支援をする中で、発達障がい児を持つ母親たちの悩みを知ったことからだった。その後、障がいについての学びを進め、今年に入って宗教施設向けの備災マニュアル『災害時に備えて―発達障がい児受け入れのてびき』を発行。テレビや新聞でも取り上げられ、大きな反響を集めた。
世界保健機構(WHO)などの調査によると、心身に何らかの障がいのある人は、世界人口の約15パーセント。7人に1人が障がい者だという。しかし、電車やバスに乗ったり、レストランで食事をしたり、日常生活をする中で、どれほど障がい者を見掛けるだろうか。7人に1人も障がい者がいると感じるだろうか。そんな問い掛けから学習会は始まった。
5人ほどのグループに分かれた参加者が最初に取り組んだのは、障害の定義を思うままに書き出していくこと。「手助けが必要な人」「機能的にできないところがあること」など、参加者一人一人の回答がボードに張り出され、意見を分かち合う。そして次に、車いすの女性が買い物をするために店舗に入る場面が描かれた絵が配られ、その女性にとってどこが障害になっているかを考える。
障害のない社会をつくる上でまず必要なのが、「障害がどこにあるか」を考えること。多くの場合、健常者は、障がい者にとっての「障害」に気付いていないからだ。障害を認識することで、初めてそれを取り除くことができる。
続いて、英国で作成された10分程度のビデオを視聴した。主人公は、親戚に障がい者がいると言いながらも、どこか障がい者に対して冷ややかな態度を取る健常者の男性。その男性が一晩寝て目を覚ますと、いつもとはどこか違った世界になっている。健常者だと無視されてしまうタクシー、車いすの利用者しか乗れないバス、点字でしか書かれていない書類、予約していたのに嫌な顔で迎えるレストランの店員、交際相手と行ったクラブでは、頭をなでられ、まるで子どものように扱われてしまう――。そこは、健常者と障がい者の立場が逆転した世界だった。
ファシリテーターの1人、石川明代さんは、約10年前にカイロプラクティックを受診した際、施術で失敗され、障がいを負ってしまった。現在は車いすの生活をしている。車いすだと、タクシーに乗ろうとして手を上げても止まってくれないことがあり、バスなど公共交通機関の利用も特に地方であれば大きな制限がある。また知的障がい者は、周囲から白い目で見られたり、大人であっても子ども扱いされたりすることがある。「差別や排斥はいけない」と言われていても、障がい者の多くが日々このような経験をしている。
ビデオ視聴後は、参加者の障害に対する考えにも変化があった。最初は、障害とは「心身にうまく機能しない、あるいは全然機能しないところがあること」と考えていた女性は、「すべての人や生き物が健やかな生活をすることを妨げるもの」に変わった。「初め、『障害とは?』と聞かれたとき、障がい者のことを自分の中でイメージしてしまった。ビデオを見たり、話し合いをしたりする中で、障がい者が障害ではなく、それを見る目や周囲が障害なのではないかと考えが変わった」と話した。
国連の障害者権利条約では、「障害(disability)」について、次のように述べている。
機能障害(impairments)を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずる・・・
では、障害のない社会をどのように築けばよいのか。実際に行動する上で、1)障がい者を社会に合わせて変えるのではなく、社会を障がい者に合わせて変える、2)当事者(障がい者)に聞く――の2点がポイントだという。
せっかく障がい者を考えた社会づくりをしようとしても、当事者である障がい者に話を聞かなかったために失敗した例も多い。たとえば、東京都内の2つの体育施設にある車いす用の席を比較すると、大きな差がある。1つの施設では、車いす用の席の前に一般席があり、一般席の人が応援のために立ち上がると、車いすの人は試合の様子が見えなくなってしまう。しかし別の施設では、車いす用の席が競技場所の目の前にあり、邪魔になるもがない。前者の施設について「一度、当事者を座らせてみたら分かったこと」と石川さんは言う。
最後には、参加者それぞれが所属する宗教団体の現状や課題を話し合い、またそれに対して自分がどのように行動するかを発表し合った。
学習会終了後、女性部会会長の森脇友紀子氏(カトリック東京教区アレルヤ会会長)は本紙の取材に、「(障がい者自身が)身を持って経験したことを話してくださり、とても実感があった」とコメント。女性部会として、今後も障がいについて扱っていきたいと語った。
ファシリテーターを務めた石川さんらは、日本でDETを専門とする唯一の団体であるNPO法人「障害平等研修(DET)フォーラム」に所属している。DETフォーラムは現在、38カ国に450人以上のファシリテーター会員がいる。日本では、行政や学校、企業などを対象とした研修が中心だが、仏教系の宗教団体向けにも実施した例があるという。詳細はホームページを。