インド最高裁は、2022年の最初の5カ月間に約200件の暴力事件があったとして保護を願い出ていたキリスト教団体の主張を検証するよう、8つの州政府に命じた。
インドのキリスト教指導者らは、この命令を歓迎しており、請願者の1人であるベンガルール大司教区のピーター・マチャド大司教は、カトリック系のUCAN通信(英語)に対し、「私たちは最高裁の命令に満足しています」と語った。
最高裁の命令は8州の首席秘書官に対し、4カ月以内に請願書に記載されている暴力事件のリストを検証し、内務省に報告するよう指示するもの。
具体的には州政府に対し、警察の予備報告書、捜査の状況、逮捕、起訴などの諸情報を提供しなければならないとし、請願者らに対しては、暴力事件の詳細な内訳をトゥシャール・メータ法務長官に提供するよう指示している。
インドの英字日刊紙「ヒンズー」(英語)によると、命令を下されたのは、ビハール、ハリヤーナー、チャッティースガル、ジャールカンド、オリッサ、カルナータカ、マディヤプラデシュ、ウッタルプラデシュの各州。
インド政府は、被害を訴えるキリスト教徒らの主張について、「中途半端で自分勝手な事実、また利己的な記事や報告」だとし、「単なる推測に基づくものだ」と主張。そのため、最高裁は今回、事実関係の検証が必要だと判断した。
内務省は先月、キリスト教徒らの請願に対し、次のように回答している。
「このようなまやかしの請願書を提出することには、何か隠されたよからぬ意図があるように思われます。国中に不安を引き起こすもので、おそらくはわが国の内政に干渉するために外国の援助を受けるための行動でしょう」
今回の命令について最高裁は、「主張の真偽について、いかなる意見も形作るものではない」としている。
請願書は、マチャド大司教と、全国連帯フォーラム(NSF)、インド福音同盟(EFI)によって提出され、キリスト教徒に対する暴力事件増加に関する調査や、警察による礼拝所の警備を要求している。NSFは、2008年に東部オリッサ州カンダマルなどで起きたキリスト教徒襲撃事件を受け、70以上の団体が集まって設立した組織。EFIは、世界福音同盟(WEA)に加盟するインドの福音派組織で、インドの200以上の福音派教団が加盟している。
21年だけでキリスト教徒を狙った暴力事件が全国で約500件も発生したと報告したコリン・ゴンザルベス上級弁護士は、ナレンドラ・モディ首相とヒンズー民族主義のインド人民党(BJP)が率いるインド政府の主張に対し、正式な反論を表明した。
インドでは、人口に占めるキリスト教徒の割合はわずか2・3パーセントで、対するヒンズー教徒は約80パーセントとなっている。
同国の幾つかの州では、改宗禁止法が制定されており、ヒンズー民族主義のグループはしばしば同法を利用して、キリスト教徒に冤罪(えんざい)を着せ、強制改宗の疑いを口実に襲撃を行うことがある。
米迫害監視団体「オープンドアーズ」は報告書(英語)で、「インドにおけるキリスト教徒の迫害は、ヒンズー過激派がその存在と影響力を一掃することを目指しているために、激化している」としている。
「この原動力は『ヒンズートバ』と呼ばれるイデオロギーで、これは、外国勢力と結び付きを持つインドのキリスト教徒や他の宗教的少数派を真のインド人ではないとして無視し、この国から彼らの存在を一掃すべきだと主張するものである」
「ヒンズートバの信奉者は、偽情報を広め、憎悪をかき立てるためにソーシャルメディアを使用するなど組織的で、しばしば暴力的かつ慎重に組織され、キリスト教徒や他の宗教的少数派を標的とする行動につながっている」
インドのキリスト教系人権団体「ユナイテッド・クリスチャン・フォーラム」(UCF)は、キリスト教徒を狙った暴力事件が21年に少なくとも486件発生したとし、同国史上「最も暴力的な年」だったとしている。
UCFは、キリスト教徒に対する暴力事件の多発は、当局による暴徒らの「不処罰」に理由があるとし、暴徒らが「強制改宗の疑いで警察に引き渡す前に、祈っている人々に脅迫や身体的暴行を加えること」を許していると主張している。UCFによると、警察は486件の暴力事件のうち、34件しか正式な事件として扱っていないという。