昨年10月16日に中米ハイチで米国人を中心とした宣教師ら17人が誘拐された事件は、発生から2カ月がたった同年12月15日、残されていた人質12人が自由の身となり解決した。この12人は、誘拐犯との交渉の末に解放されたわけではなく、祈りのうちに大胆な脱出計画を決行し、逃亡に成功したという。宣教師らの所属団体である米キリスト教慈善団体「クリスチャン・エイド・ミニストリーズ」(CAM)が、その内幕を明らかにした。
「監禁されている間に、神は幾人もの人質たちに脱出を試みたいという願いを与えました。しかし、いつ、どのようにして実行するかについてはなかなか意見がまとまりませんでした。そのような試みは危険だからです。彼らは神の指示を求めて幾度も祈りました」。CAMの広報担当者であるウェストン・ショーウォルター氏は、昨年12月20日に開いた記者会見でそう語った。
12人の構成は、1組の夫婦、生後10カ月の女児、3歳の男児、14歳の少女、16歳の少年、独身男性4人、独身女性2人だった。
「時間はかかりましたが話し合いと祈りの結果、揺るぎない一致が与えられ、神がこのように導いておられると彼らは判断しました。この最終的な一体感そのものが大きな奇跡だったと人質たちは語りました。彼らは何度か脱出を計画しましたが、特定のことが幾つか起こるまでは、神の指示は待つことなのだと決めていました」
「彼らが脱出を計画したとき、神は2度にわたり今はその時ではないという明確なサインを与えました。2回とも、彼らが話し合いを持っていたちょうどその時に、まさしく(待ての)サインとして求めていた事柄が起こりました。神は働いておられましたが、タイミングが違っていたのです」
12人は戦略を練り、祈り続け、そして12月15日、奇跡的に一致が与えられた。そして、監禁されていたバリケード付きの家屋から一気に脱走しようという合意に至った。
「夜の間に彼らは神の指示どおり準備し、靴を履き、服の中に水の入った袋を詰め込んで出発しました。マットレスを隅に積み重ね、出発に備えました。彼らはタイミングを見計らって塞がれていたドアを開ける方法を見つけ、自分たちが選んだ経路に向かって静かに列をなして進みました。多くの見張りがすぐ近くにいた中、監禁されていた場所を速やかに立ち去ることができたのです」
監禁場所からの脱出に成功した12人は、目印となっていた山に向かって歩き、星明かりの下、北西に進んだ。
「神の助けと守りと導きにより、彼らは夜を徹して速やかに移動しました。森ややぶを抜け、いばらやとげ(のある植物)の中を通り抜け、16キロほど歩きました。人質の一人は、『ものすごいやぶの中を2時間は歩きました。私たちはずっと(誘拐犯の)ギャングの支配地の中にいたのです』と話していました。月が彼らの行く道を照らしてくれました。どちらに進めばよいのか分からなくなったとき、彼らは立ち止まって祈り、神に道を示してくれるよう求めました」
やがて一行は、救助の電話連絡を手伝ってくれる人物を見つけた。そして、その日のうちに全員が米沿岸警備隊の飛行機でフロリダに向かい、先に解放されていた人質たちと再会を果たした。
事件を起こしたのは、ハイチのギャング「400マオゾ」で、17人の解放と引き換えに計1700万ドル(約19億円)の身代金を要求していた。12人の脱出が成功する前には、11月21日に健康状態が悪化していた2人が、同年12月5日には3人が解放されていた。
CAMのデイビッド・トロイヤー総主事は、宣教師全員がハイチでの活動の危険性を認識しており、「適切な安全対策」が取られていたとする一方、CAMの安全対策手順を改善する意向を表明。「危険な場所でも宣教したいというスタッフの思いを、私たちは高く評価しています。しかし、今回の出来事で、私たちは安全対策を強化し、危険についてよりよく指導する必要性を強く認識しました」と述べた。