ジンバブエは、1980年から2017年まで、37年続いたムガベ政権時代に、無謀なコンゴ派兵や、経済の柱である白人農場主の土地を強制収用するなどの強権に走った結果、経済を混迷させ、ハイパーインフレ(最高2億3千万パーセント)を招いたことはよく知られる。
グレイグ・デオール氏は当時、不当に農場を奪われた白人農家の一人だ。彼は、1948年から所有して彼自身も育った農場からの収益で家族を養っていたが、政府は2003年、突然何の補償もなく農場を接収して、デオール氏とその家族を強制的に追い出してしまった。
政府はこれを、黒人農家と白人農家との間でより公平な土地分配を図る土地改革プログラムの一環だと強弁したが、近代法治国家ではあり得ない横暴と言わざるを得ない。デオール氏にとってこの出来事は大きなトラウマとなる悪夢だった。
政府の横暴に対して彼が取り得る手段として、3つの選択肢があった。「戦う」か「逃げる」か、それとも「許す」かだ。
彼の友人の中には、自分の土地のために戦い、殺された者さえあった。ほとんどの友人は国を離れたが、それも仕方のないことだった。しかし彼と彼の家族は、3つ目の選択肢「許し」を決断した。
彼は「もしそれ以外の選択肢を選んでいたなら、私は苦々しい心の傷を引きずり続けることになっていたでしょう」と振り返るが、敬虔なキリスト者である彼を何よりも後押ししたのは、次の主イエスの言葉だった。
「あなたを告訴して下着を取ろうとする者には、上着も取らせなさい」(マタイ5:40)
彼は当時を振り返り「私たちにとってこれは『もし人があなたの農場を取るのなら、その人に農業の方法をも教えなさい』という意味に受け取れました。私たちはそれを実行しました。そうすると不思議なことに、不当な扱いを受けた心の傷はすっかり癒やされ、苦々しい思いから解放されたのです。そして神が私に、最も貧しい人々に仕え、彼らに福音を伝える道を開いてくださったことが分かったのです」と証しした。
彼の土地と家は接収され、12家族の黒人農家らが受け取った。一方デオール氏は、家族らを首都ハラレに引っ越しさせ、彼自身は「ファンデーションズ・フォー・ファーミング」(FFF)というグループに参加し、新しい所有者や小規模農家に農業を教え始めた。
グループの創設者でデオールの同僚のオールドリーブ氏は、子どものような純粋な信仰の持ち主だ。ある日オールドリーブ氏は森の中に入り、そこに座って「農業のやり方を教えてください」と神に求めた。祈りの中で神が彼に見せてくださったのは、森床を覆う美しい多層のカバーだった。これは土に栄養を与え、土を守るための神が造られた自然界の仕組みだった。
そこで彼は自分の農場に戻り、文字通りそれを試してみた。焼畑に頼らず、耕しもせず、という従来の常識では考えられない農法だったが、すぐに10倍の収穫を得るなどの素晴らしい結果を見た。オールドリーブ氏は、神がこの啓示を与えたのは、自分のためではなく、アフリカ全体の農村の、傷ついた貧しい農民たちを助けるためだと知っていた。
この無耕起(むこうき)技術の成功は、ジンバブエ政府の目に留まり、政府はこの方法を支持した。そして2020年、ジンバブエでは20年ぶりの食糧余剰が発生する結果を得た。
「実際、食糧生産量は4倍に跳ね上がり、2020年の食糧増産については、3倍から4倍というのが公式の予測だった」とデオール氏は言う。現に、国の主要作物であるトウモロコシは、この方法で3倍の収穫量になったのだ。
FFFは福音を伝えることを主な目的としており、現在世界中でこの技術を教えている。デオール氏は「私たちが教えていることの80パーセントは魂の部分です。私たちは農業を、福音を分かち合う入り口に利用しているにすぎません」と、ためらわずに彼らの目的を述べた。
ジンバブエ政府は、いまだデオール氏に補償も賠償もしていないが、彼は「私はかつてアフリカで農場を所有していましたが、今は、全アフリカが私の農場となったのです」という言葉で締めくくり、あの時の選びに一片の後悔もないことを言明した。
一人の人が、涙とともに主イエスの言葉に従うとき、聖書が約束している通り、それは朽ちゆく食物のみならず、不朽のいのちに至る食物をも、驚くほど豊かに刈り取らせてくださるのだ。
私たちはたゆまず愛と希望の種を蒔(ま)こう。たとえそれが不毛に見え、心が塞ぐときにおいてさえもだ。
「涙とともに種を蒔く者は、喜び叫びながら刈り取ろう。種入れをかかえ、泣きながら出て行く者は、束をかかえ、喜び叫びながら帰って来る」(詩篇126:5、6)と聖書が約束するように、いつの日にかそれは、大いなる喜びとともに刈り取るようになるのだから。
彼らの農業伝道がさらに実を結び、ジンバブエとアフリカの霊的大収穫となるように祈っていただきたい。
■ ジンバブエの宗教人口
プロテスタント 67・3%
カトリック 9・6%
イスラム 1・1%
土着宗教 19・3%