ハイチで悪名高いギャング「400マオゾ」が米国人宣教師ら17人を誘拐し、1700万ドル(約19億4千万円)の身代金を要求している事件が発生する約2週間前にも、同じく米国人のジャン・ピエール・フェレール・ミシェル牧師(79)ら3人が、教会近くで誘拐されていたことが明らかになった。ミシェル牧師は17人と同様、いまだ解放されておらず行方不明のままだ。
「この事件は17人が誘拐された事件ほど話題になっていませんが、ミシェル牧師も米国人です亅。ミシェル牧師の家族の友人は米マイアミ・ヘラルド紙(英語)に匿名を条件に語った。
現地メディア「ハイチ・リブレ」(英語)によると、10月3日午前8時ごろ、制服を着て警察を装った重武装の数人が、ミシェル牧師と信徒のイザベル・デベンデギスさん、ノーマン・ワイナーさんの計3人を、ミシェル牧師らが設立したジーザス・センター教会の前で誘拐した。デベンデギスさんは解放されたが、ミシェル牧師とワイナーさんについては、身代金を払ったものの、いまだ解放されていない。ギャングらはミシェル牧師の800万ドルを含め、3人で計1500万ドルを要求してきたという。
「彼ら(ギャング)がドルと言っても、それが米ドルなのか、ハイチドルなのか分かりませんでした」とミシェル牧師の家族の友人は同紙に語った。「身代金を要求され、2つの家族が一緒になって身代金を払いましたが、払った後に電話がかかってきて、お金が足りないから解放できないと言われました。それ以来、連絡は取れていません」
ミシェル牧師が解放されたといううわさもあったが、妻のマリーズさんは19日、ハイチ語で彼の解放を懇願する動画を公開した。
「17日がたちましたが、夫はいまだ解放されていません。服薬もできておらず、じき80歳になる老人で先も長くないのです。私は関係者すべてに嘆願し、お願いします。私たちの牧師を解放してください。私の夫を解放してください。子どもたちに父親を返してください。家族に兄弟を返してください。私たちはすでにすべてをやったのです。それなのに、彼らはいまだ人質を拘束しています。彼らは人質を解放すべきです。私たちはやるべきことをすべてやったのです」
クリスチャンポストは21日、ミシェル牧師の家族にさらなるコメントを求めたが、応答はなかった。
宣教師ら17人とミシェル牧師らの誘拐事件が国際的に広く注目される一方で、ハイチでは教会が誘拐犯に狙われる事件が何カ月も続いており、これまでに少なくとも1人の犠牲者が出ている。
ハイチ・リブレ(英語)によると、9月26日には首都ポルトープランスで、現地のバプテスト教会に行く準備をしていた執事のシルナー・ラファイユさん(60)と妻のマリーさんが、重武装した集団に襲われた。集団はシルナーさんを銃殺し、マリーさんを誘拐。銃声に驚いた教会員たちはパニックに陥り、逃げる際に負傷した人もいたという。
4月には、ポルトープランス郊外のセブンスデー・アドベンチスト教会の牧師と信徒3人が銃を持った男たちに誘拐される様子が、フェイスブックやユーチューブで生配信された。牧師と信徒らは3日後に解放されたが、この事件で身代金が支払われたかどうかは不明だ。
この教会の設立者の息子であるグレゴリー・M・フィガロさんはマイアミ・ヘラルド紙に対し、8~10人の武装集団が襲撃に関与したと言い、「このようなことが起こるのであれば、この国ではどんなことでも起こり得てしまいます。なぜなら、教会であれ学校であれ、いかなる施設に対しても敬意が払われていないからです」と語った。
同紙がハイチ人権分析研究センターの情報として伝えたところによると、同国では10月1日から16日までの間に119件もの誘拐事件が発生している。また、10月16日までに発生した今年の誘拐事件は、すでに昨年1年間の796件に匹敵する782件に上る。同国では報告されていない誘拐事件も多く、実数はさらに多いと見られている。