日本基督教団涌谷(わくや)教会(宮城県涌谷町)が設立した「涌谷保育園」の元職員らが、同教会の元牧師で元園長の瀧澤雅洋氏によるパワーハラスメントを訴えている訴訟の第1回口頭弁論が10日、仙台地裁で行われた。昨年退職した元職員17人のうち12人が1月、同園を運営する社会福祉法人涌谷みぎわ会に対し、計2640万円の損害賠償を求める労働審判を申し立てていたのが民事訴訟に移行したもので、この日は元職員らが記者会見も開いた。
口頭弁論では、同園の労働組合委員長で、短大卒業後42年間保育士として勤務してきた元職員が原告の一人として意見陳述。同園と同教会の関係や、瀧澤氏着任前の様子を説明するとともに、元職員らが受けてきたパワハラ被害を訴えた。
元職員の意見陳述によると、同園は宗教法人日本基督教団涌谷教会の付属保育園として、1946年に開設。その後、2004年に社会福祉法人化した際、キリスト教保育を継続するため、同教会の牧師を涌谷みぎわ会の理事長、また同園の園長にするという協定書が交わされた。そのため開園以来、同園の園長は無牧などの時を除き、同教会の牧師が兼務してきた。
元職員は、瀧澤氏着任前の同園について「園長を中心にした家族的な良い関係の中で、私たち保育士は一人一人がお互いを大切に認め合い、協調し合いながら大きな愛の中で和やかに保育をし、地域に貢献しているという誇りを持って働いてきました」と陳述。卒園生が小学生や中学生になっても訪ねてくることがあり、町の成人式に保育士が参列するほど地域に愛された保育園だったとした。瀧澤氏の着任前年には、勤続20年以上のベテラン保育士が半数以上を占め、多くが定年まで勤務することを考える良好な職場環境だったという。
しかし、2015年4月に瀧澤氏が同教会の牧師として着任してから状況が一変した。瀧澤氏はまず理事長と副園長に就任し、翌16年4月に園長に就任。その後、瀧澤氏のパワハラにより毎年数人が職場を去るようになり、昨年11月までに計28人が退職する事態になったという。
保育士が業務中に園長室に呼ばれてすぐに対応できないときには、「理事長、園長の瀧澤が呼んでいるのになぜすぐに来ないのか」と叱責。一度でも意見すれば、「先生」ではなく「さん」付けで呼ぶなどあからさまに差別し、あいさつしても無視することが日常的に起きたという。
瀧澤氏のパワハラによって、保育士らが動悸(どうき)や頭痛、吐き気、不眠などの心身の不調を来たすようになったため、理事に複数回相談したが、瀧澤氏が訴えに耳を貸すことはなく、改善されることはなかったという。そのため、19年11月に労働組合を結成し団体交渉を開始。しかし、解決には至らず、20年3月に職員17人が退職届を提出した。瀧澤氏は園長辞任を約束したが、理事会は「瀧澤氏を施設管理者とする」と決議し、約束を実質的に反故にした。瀧澤氏のパワハラはその後も継続したため、耐えられなくなった17人は同年11月までに退職した。
同園の保護者会が瀧澤氏に説明を求めたが、保護者会の求める形で説明がなされることはなく、保育士不足や瀧澤氏に対する不信感により転園が続出。20年度には120人いた園児は、30数人にまで減ったという。
瀧澤氏はパワハラを理由に19年10月、同教会の総会で牧師の職を解任されており、協定書に従うならば、理事長と園長の職も退く必要がある。しかし、解任の無効を求めて教会を相手取って提訴し、現在も訴訟が続いている。元職員らによる今回の訴訟でも、パワハラを否認する姿勢を貫いている。