元園長のパワーハラスメントが問題となっている涌谷(わくや)保育園(宮城県涌谷町)で、新園長に就任した60代の女性が、1カ月もたたずに退職届を提出していたことが分かった。就任後すぐに、現在も園を運営する社会福祉法人の理事長としてとどまる元園長のパワハラにより、職員17人が大量退職。保育環境が整わず体調を崩し、さらに元園長が責任を押し付ける発言をしてきたことなどから退職を決めたという。
パワハラが問題となっているのは、園を設立した日本基督教団涌谷教会の元牧師である瀧澤雅洋氏。5年前に同教会に赴任し、牧師、園長、園を運営する社会福祉法人涌谷みぎわ会の理事長を兼任してきたが、昨年10月の臨時教会総会で、園でのパワハラなどを理由に牧師は解任された。今年3月に園の職員と保護者会が園長退任を要求すると、4月末に園長も退くが、「施設管理者」という役職を新設し、現在も法人理事長、施設管理者としてとどまっている。
一方、園長不在の期間が数カ月にわたって続いていることから、保護者会が町に不安を訴え、町は「本来町がするものではない」としつつも、県の助言や瀧澤氏の要請もあり、園側に新園長候補を紹介したという。新園長は3月末まで園に勤務していた保育士で、瀧澤氏が特定の職員を強い口調で指導する場面を見ていたこともあり、以前から園の雰囲気には違和感を感じていた。そのため、町から打診があったときも一度は断ったが、「人がいないのであれば手助けしたい」と、10月中に園長就任を了承。通常園長は園の経営も担うが、理事長兼施設管理者として瀧澤氏がいるため、保育士の指導・配置などを行う保育業務の責任のみを担う約束で、他の主任保育士2人と共に11月1日に就任した。
しかし、就任から約1週間後の9日、瀧澤氏によるパワハラに耐えきれずに職員17人が退職届を提出。17日からは退職する職員らが有給休暇を取ったため、残った少ない保育士で保育をせざるを得なくなった。園児に対する保育士の数は児童福祉法で定められており、基準に満たない状況が続く場合、認可の取り消しもあり得る。
18日に県と町の担当者が園を訪れると、瀧澤氏は「この3人(新園長と主任保育士2人)が来たから17人の職員が辞めた」と発言したという。職員の大量退職の責任を押し付けられた形になり、ショックを受けた新園長はその後体調を崩し、24日に町の担当者に「辞める」とメールを送信。25日には瀧澤氏に退職届を提出した。
しかし町によると、瀧澤氏は、新園長について体調不良による欠勤とするのみで、退職については報告しておらず、連絡もつながらないことから、いまだ正式な確認ができていないという。また、保護者向けに配布されたクリスマスの案内(12月4日付)でも新園長の名前は残ったままにされている。
新園長が退職届を提出したことは、8日に河北新報が、9日には東日本放送が報じている。本紙が園に問い合わせたところ、瀧澤氏以外の職員から「園長はいない」との回答はあったが、退職なのか、体調不良による欠勤なのか明確な答えは得られなかった。保護者らが長らく不安を訴えていた「園長不在」は解消されているのか、それともわずか1カ月足らずで逆戻りしてしまったのか、曖昧なままになっている。
新園長は保育士時代、他の保育士からは「瀧澤派」と見られ、昨年11月の労働組合の結成時には声を掛けられなかったが、現在は誤解だと分かり、労働組合側とは和解しているという。「園の状況が分かっていれば、園長職は引き受けなかった」と話している。一方、瀧澤氏本人はパワハラを否定している。