職員17人が元園長のパワーハラスメントを訴え一斉退職した涌谷(わくや)保育園(宮城県涌谷町)で、16日から保護者説明会が複数回に分けて開催されている。参加した保護者によると、説明会には、元園長で、園の母体である日本基督教団涌谷教会の元牧師、また園を運営する社会福祉法人涌谷みぎわ会の理事長でもある瀧澤雅洋氏が出席したが、パワハラを認めることはなく、職員の一斉退職は自身の社会的失墜を意図する一部町民による陰謀的な動きによるものだと主張したという。
園では11月末、瀧澤氏による5年にわたるパワハラに耐えかね、保育士ら職員17人が一斉退職した。多くの保育士が入れ替わり、子どもたちが生活環境の変化に過剰な反応を示していることなどから、保護者らは再三にわたって説明会の開催を求めてきた。しかし瀧澤氏は、説明会の開催にすぐには応じず、保護者に向けた文書で、自身のパワハラをめぐる報道について「明らかに事実ではないもの、事実を歪曲したもの」があり、「いたずらに不安を煽(あお)っている」などと主張。「実質的には通常の保育が十分できる状況」だとし、園内は「職員たちの活気と子どもたちの元気な声」で満ちていると述べていた。
だが保護者の間では、「子どもが朝、保育園に行きたくないと泣くようになった」「寝かし付けるときだけ授乳していたのに、仕事から帰ると頻繁に乳を欲しがるようになった」など、不安の声が上がっていた。また、保育中に子どもの目の上にあざができていたことについて尋ねても、保育士から十分な答えがなかったことから転園を決めた保護者もいた。
説明会に参加した保護者によると、瀧澤氏は、職員の一斉退職について自身の社会的失墜を意図する一部町民の陰謀によるものだと説明した上で、パワハラについては「私の認識では一切ないと断言できる」と否定。詳細な被害証言が報道されているにもかかわらず、「いつ、どのようなことがあって、(職員がパワハラを)お感じになったのか明らかにしたい。しかし実は、現実には各論は一つも出てきていない」などと述べたという。また、職員が一斉退職する事態を招いたことについて、理事長としての見解を求める質問には、自身の影響を否定した上で、「今いる人がハラスメントを訴えて辞めるとは思わない」と語ったという。
しかし、瀧澤氏のパワハラは保護者の中にも指摘する声がある。ある保護者は「うちの子は、そこまで保育園が嫌だと話していません。最近はクリスマス会の練習が楽しいみたいです。でも保育園のニュースなどを見ると、理事長(瀧澤氏)は悪いことをした人、先生たちをいじめた人だと言っていました」と話す。また、説明会の開催を求めて涌谷町役場の職員が園を訪れた際には、職員を指差し、怒鳴りつけたこともあったという。当時、周囲には多くの子どもたちがおり、現場を目撃した保護者は「外まで聞こえるほどの怒鳴り声に恐怖を覚えました」と言う。
保護者らは、十分なスペースのある付近の小学校の体育館で説明会を開催することを求めていたが、瀧澤氏は新型コロナウイルスの感染防止を理由に、少人数に分けて園内で開催すると通告。説明会初日となった16日は、開催方法に不満を持った保護者ら約50人が、開催時間の約30分前から園前に集結した。保護者らは、保護者全体での説明会の開催を求めたが、瀧澤氏は敷地内から退去するようインターホン越しに命じるだけで、説明するどころか、警察に通報し保護者らを追い返そうとしたという。しかし、瀧澤氏自身が現場に駆け付けた警察官から、「話をしないと納得しないと思いますので出てきてください」と言われる始末だったという。
瀧澤氏はこの日、開催時間の午後7時に4家庭のみ入園を許可し、それ以外の保護者は雪が降る園外に残された。途中、涌谷みぎわ会の理事を務める社会保険労務士が園の裏側から入るところを保護者らが見つけ、理事としての見解を求めたが、「寒いですね」などと言ってはぐらかすだけで、「瀧澤氏と連絡が取れないので帰ります」と述べてその場を離れたという。
16日の説明会は予定時間を大幅に超え、午後10時まで続いたが、終わるまで園外で待つ保護者もいた。その保護者によると、説明会に参加した保護者は、パワハラを認めず、町民の陰謀を唱える瀧澤氏に対して激高していたという。また説明会には、帰ると話していた社会保険労務士の姿もあったという。
涌谷町はすでに、他の保育園や幼稚園へ転園を希望する保護者向けに相談会を開催しているが、瀧澤氏からの説明を聞いた上で決めようと考えている保護者もいるという。信頼回復のため保護者全員を集めての説明会を要求した保護者会に対し、瀧澤氏は25日、「理解しがたい」と拒否する姿勢を示した。少人数に分けての説明会はこれまでに計7回行われており、26日には最後の説明会が行われる予定。